第24話 共和国にて case-4

その後、彼女たちが買い物をしていると先程の通りで大きな騒ぎが起きている。



「どうしたものでしょうか?」

セイフォンは両手にいっぱいの食料と衣類を抱えて不思議がっている。




パプリカは騒動の方を凝視した。





「大変だ。奴隷の一部が移送中に逃げ出した。巻き込まれないうちに避難しろ。」

騒動の方向から走ってくる男が大声で叫んでいる。






「なんと、逃げ出したでござるか。」

セイフォンはなにやら感心した様子である。






「身を隠さないと。」

パプリカはセイフォンと一緒に身を隠そうとする。






「しかし大捕物に興味があるでござるよ。」

セイフォンは、パプリカの心配を他所に騒動の方に向かってしまった。






「ちょっと。」

パプリカはセイフォンを追いかける。







二人が騒動の方向に近づくと、そこには兵士から剣を奪った奴隷の姿とその奴隷たちに囲まれている奴隷商人たちの姿であった。




セイフォンは奴隷商人たちの陣営が不利と知るやいなや、

「パプリカ殿、それがし目的遂行のための近道を思いついたでござる。」






「セイフォン、まさか。」

パプリカは彼女の思いつきがなんなのかをすぐに推測できた。何故なら、奴隷商人が今にも反乱した奴隷等に殺されようとしていたからである。





「やはり虎穴に入らずんば虎子を得ず。今が恩を売る最大のチャンスでござる。」

セイフォンはそういうと自分が持っていた持ち物をパプリカに押し付けてきた。




「しばしの間頼むでござる。」




「ちょっとこんなに持てないわよ。」

パプリカは荷物を押し付けられたところオロオロする羽目になった。





「なに、すぐに片付くでござるよ。」

セイフォンは刀に手をかけた。




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マキシマスは機会を窺っていた。



必ず綻びは生まれる。彼はこの共和国と戦いに敗れた国の将軍だった。



祖国は終ぞ滅んでしまったが、魂までも売り渡したわけではない。



彼は、奴隷の身分に身を落とすことを嫌い、隙を見て仲間と共に逃げ出そうと考えていたのである。



彼には”奇跡”が使えた。そして、奴隷商人にはそのことを知られぬようにどんな目にあっても隠し通してきた。



それも千載一遇のチャンスをモノにするためだ。



奴隷商人は複数の護衛を連れており、武器も気力も失った奴隷たちは従順に従うのみである。



マキシマスは思った。どうせコロッセウムで見せ物にされるくらいならば今ここでのチャンスにかけようと。




彼と彼の仲間たちがマスウェルとかいう男に売られていくことが決まってすぐに彼らは順番に馬車に乗せられている。

マスウェルは、当初若い男しか購入しないつもりであったが、このマキシマスの一団を見て、追加で購入していった。




余程、感の働く男らしい。マキシマスは非常に強かった。

共和国に敗れた戦いでも最後まで抵抗して、王と王妃の盾となり戦った。




しかしながら、王家は自身の国がもはや再興不可能であることを知ると毒をあおって死んでしまった。




その後も彼は抵抗したが、守るものを亡くし、放浪の末にいつの間にか捕まっていたのである。



彼の奇跡は、周囲にテレパシーを送ること。



彼が捕まってこの奴隷商人の奴隷の仲間に加えられた時に見慣れた仲間たちがいた。



彼らはマキシマスを今でも将軍と慕っている。



マキシマスは彼の能力に慣れた仲間に、事を起こすタイミングを伝えて、奴隷商人たちが気を緩めた瞬間に武器を取り上げて制圧をしたのである。




『とにかく、騒ぎをおこせ。合図をしたら騒ぎに乗じて市民に紛れて逃げろ。一人でも多くの仲間を逃す。なにがあっても振り返るな』




マキシマスは共に暴れる仲間等に指示を飛ばしていた。




側からは雄叫びを上げて剣を振り回しているようにしか見えない。




「お前には世話になったからな。殺してやる豚野郎。」

共に逃げ出した仲間の一人が奴隷商人に斬りかかろうとしている。



マキシマスは焦った。人を殺せばより取り締まりはキツくなる。それも奴隷商人はそれなりに地位が高い。



「待て。逃げることを優先しろ。」

マキシマスが彼に声をかけた瞬間と彼が奴隷商人を手にかけようとした瞬間はほぼ同時だった。




しかし、奴隷商人が殺されることはなかった。

一瞬、マキシマスの頬が風を感じた。そして、次の瞬間、奴隷商人を手にかけようとしていた男はその腕ごと企てを阻止されていたのである。




「腕が、腕が」

彼は自分の利き腕が失われたことを認めきれていない。




黒い髪の女がそれをやった。そして、返す刀で男の首をはねようとしたのである。




マキシマスは彼女を視認するとすぐに仲間たちにテレパシーを行った。



『とんでもないやつが来た。皆急いで逃げろ。』



マキシマスは必死に伝えたがどこからも反応がない。そして、奴隷商人に手をかけようとしていた男の首が宙にまったのが見えた。



『おい、どうしたんだ。』


彼が自身の奇跡に応答がないのを不思議に思って振り返ると仲間たちは全員殺されていた。

一撃でである。



彼らは戦いでも最後まで残った強者たちのはず。とマキシマスが考えた刹那、目の前に女の攻撃が迫っていた。



マキシマスはそれを剣で受け止めると大きく後退した。




「ほう、今のを受け止めるでござるか。貴様が首魁と見えた。」

黒髪の女は追撃の姿勢にはいる。




マキシマスは、構えた。そして、二人の攻撃が交錯する。



「待て。待ってくれ。殺すな。」



二人の技が交錯しようとした時、意外なところから静止の声が聞こえた。



奴隷商人である。




「反乱は鎮圧された。女よ。そいつは殺すな。もう売れてる。」

奴隷商人は女に懇願するようにそう言った。





「左様でござるか。」

女は自身の得物を鞘に戻す。





「待て。まだ勝負は」

マキシマスはそう言いかけたがいつの間にやら、周りを騒ぎに駆けつけた兵士たちに囲まれている。




「おい、俺の命はどうなる?」

マキシマスは状況を確認してから奴隷商人に問いかけた。




「それを決めるのは私ではない。」

奴隷商人はキッパリとそう言った。




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奴隷商人に恩を売ると決めてからのセイフォンの動きは早かった。



パプリカが瞬きをするたびに武器を持った奴隷を一人、また一人と斬り殺していた。




「これがセイフォンの力。」

パプリカは久々に戦慄を覚えた。彼女がその気になれば、自分が銃を構えることもなく殺されるであろうと感じ取ったからである。



パプリカはセイフォンの使う奇跡の正体をうまく理解できなかった。



なにやら相手との距離感を埋めるという能力らしいのだが、セイフォン本人の説明が下手すぎてどういう発動条件なのかもよくわからなかった。




「彼、よく反応したわね。」

パプリカは一人残った奴隷に向けて呟いた。




セイフォンはこちらに向けて手を振っている。





残った奴隷は、捕縛されて何度か鞭に打たれた後、乱暴に馬車に詰め込まれていた。

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