第59話
「分かりました。そのお話、お受けいたします」
メリアはエルクの目を見据えながら、はっきりとした口調でそう言葉を返した。
メリアからの返事を聞いたエルクは分かりやすくうれしそうな表情を浮かべつつ、こう言葉をつぶやく。
「さすがメリア、それでこそだ。ここでも一切物怖じしないその性格と度胸こそ、玉座に座る者として相応しい」
その後エルクはゆっくりとメリアの前まで歩み寄ると、そのまま彼女に向けて自身の右手を差し出した。
「これからよろしく、メリア」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
メリアはエルクから差し出された右手に自身の右手を出して答えると、二人はそのまま固い握手を行った。
それを見た人々たちは同時に大きな歓声を上げ、新たな皇女の誕生を大いによ転び始める。
「そうだよ!最初からそうしていればよかったんだよ!」
「なんで今まで誰も思いつかなかったんだ…?別にハイデル様と婚約を結ぶという形じゃなくって、この方が直接的で合理的な方法じゃないか」
「そんなことはみんな気づいていたさ。ただ、それをやるには一番の障害だった人物がいただろう?今はそれがいなくなったからこうして話が進んでいるのさ」
「まぁ、それもそうだな。やれやれ、今まで長かった長かった…」
メリアの皇女としての即位を喜ぶと同時に、これまでのハイデルに対して愚痴を発し始める人々。
それぞれが心の中に思うことはやはり様々あった様子で、ハイデルのすべての権力が失われた今、それらがどっと流れ出るように表になっているのだろう。
「み、皆さん
「いやいや、そんなことはないですとも!」
「だってメリア様は、我々が散々対応をこまねいていたハイデル様とアリッサ様をいとも簡単にこの王宮から取り除いてくれたではありませんか」
「このようなこと、メリア様のような方でなければ実現するのは無理だったことでしょう。…我々にはそうするだけの勇気も気力もありませんでしたから…」
貴族家の者たちは心からの感謝の言葉をメリアに述べる。
しかしメリアにしてみれば、自分がハイデルを倒したという自覚など一切なかった。
「ハイデル様とアリッサ様に罰を与えたのはエルク様ですし、私というわけじゃ…」
「いや、そんなことはないぞ。確かに最後決定を下したのはこの俺だが、そのきっかけを作ったのは間違いなくメリア、君だ。君がいなければ今頃も、変わらずハイデルがこの王宮でわがままを利かせていたことだろう」
エルクはそんなメリアの考えを諭すような口調でそう言葉をかけた。
それもまたエルクの本心からの言葉であり、そこに誇張や気遣いからくる言葉は含まれていなかった。
「だからこそ改めて感謝するよ、メリア」
「……!」
…その時、メリアはここにきて初めてその表情を少し赤くし、どこか恥ずかしそうな表情を浮かべてみせる。
その反応が意外なものだったからか、エルクはややうれしそうな表情を浮かべつつ、こう言葉を続けた。
「おいおい、なかなかかわいい顔を見せてくれるじゃないか。ハイデルのやつ、第二王子としての仕事ぶりは全くだったが、最後の最後に良い仕事を成し遂げたみたいだな」
「か、からかわないでくださいエルク様…」
…なかなかに悪くない雰囲気を醸し出す二人であるものの、それを絶対に許さないかのように二人の人物が彼らの元に現れる。
「なんだなんだ、お取込み中か?」
「見せつけてくれますねぇ。メリアが皇女として即位するということは、二人は兄妹に近い関係となることでしょう。あまり愛情関係を深められるのは、また別のトラブルの元かと思いますよ?」
「兄妹が仲が良くて何が問題なんだよ。まさかメリアが皇女となったから、俺がメリアとの関係を諦めるでも思っているのか?」
「…それは、どこまで本気なんだ…?」
「さぁな♪」
エルクは二人の事をからかうような口調でそう言葉を発すると、非常に楽しそうな雰囲気を発しながら二人の事を見つめ返す。
まるでいたずらっ子のようなその雰囲気にやれやれという表情を浮かべる二人であったものの、二人の雰囲気もまたどこかこの状況を楽しんでいるように感じられた。
「メリアがはっきりと皇女となった今、その隣に立つものに求められる資質は強さだ。騎士長としてメリアを守り抜ける力を持つ俺こそが、最もふさわしいと思うが?」
「それは時代遅れですよ。これから必要なのは政治的な能力です皇女様の隣に立つ者には、皇女様の事をサポートとしてお支えすることができるだけの能力を持つもの、すなわちこの僕がふさわしいのではないですか?」
「じゃあ、その両方を持つ俺が一番ふさわしいということになるな?二人とも文句はないな?」
「「んなわけあるか!!!」」
…ハイデルに関する争いが一件落着した今、この第二王宮ではまた新たな争いが巻き起こりそうな雰囲気を感じずにはいられないのだった。
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