第58話

「え……えええ!?!?」


突然にエルクの口から発せられたその言葉を聞いて、メリアは非常に珍しくも心から驚いたような声を発して見せた。

これまでどんな時でもあまり感情を表に出すことのない彼女の事を考えれば、なかなかレアな瞬間だと言えるだろう。

その一方、エルクの方は変わらず落ち着いた口調のまま言葉を続けていく。


「どうだ?やってみる気はないか?俺はメリアならば間違いなく優れた皇女になってくれることと思うのだが」

「そ、それはさすがにいくらなんでも…。だって私、王族の生まれというわけではりませんし、王族の関係者というわけでもありませんし…。そもそも私には資格そのものがないと思うのですが…」

「メリア、君はかつてハイデルの婚約者であった身だ。ゆえにこの王宮とは全くの無関係というものでもないだろう」

「う、うーん……」


非常にけろっとした雰囲気でエルクはそう言葉を発する。

一方のメリアは、さすがに今回ばかりは与えられた言葉の大きさに驚愕しているからか、なかなか素直にその言葉を受け入れられないでいた。

するとその時、そんなメリアの横に控えていたクリフォードとフューゲルの二人はそろってこう言葉を発した。


「あぁ、そりゃいいな。メリアには間違いなく皇女としての素質がある。俺は騎士長としてこれまでいろんな人間を見てきたが、ここまで可能性を感じる女は初めて見たんだ。悪い話じゃないと思うが?」

「僕もいいと思いますね。メリアの性格や考え方を想ってのことであるのは当然のことですけれど、僕としてもその方が燃えるというものです」


メリアの皇女即位に肯定的な意見を発する二人。

その点では二人の意見はそろっていたものの、その後すぐに二人は互いをけん制し始める…。


「…クリフォード様、あなたがメリアの事を皇女として即位させたいのは、ライバルを減らすためなのではありませんか?」

「…はぁ?」

「メリアが皇女となったなら、その婚約相手として相応しい人物は非常に限られてきます。ちょっとやそっとの貴族家や資産家ではチャンスさえつかむことはできないことでしょう。しかしその一方、騎士長としての立場をお持ちのあなたはそうではない。彼女に相応しき婚約相手として名乗りを上げ、受け入れられる可能性が非常に高い。それを狙っておられるのではありませんか?」


フューゲルはやや得意げな表情を浮かべながらそう言葉を口に支、鋭く適切な推測をクリフォードのもとに突き付ける。

すると、今度はクリフォードの方がフューゲルに対して言葉を返した。


「それを言うならお前だって、メリアが皇女になった方が燃えるとか言っていたよな?あれはつまり、メリアどうこうというよりもそうなってくれた方がお前にとって都合がいいという意味だろう?周りから将来を期待されているお前なら、ここから出世を積んでいけばいずれ皇女に相応しい立ち場になれる可能性だってある。そのやる気を出させてくれるという意味で、あんなことを言ったんじゃないのか?」


…互いに視線をバチバチとまじりあわせる二人。

そんな二人の事をしり目に、メリアはそのままエルクに対してこう言葉を返した。


「わ、私がいきなりハイデル様の後を継いでしまって皇女になってしまったら、貴族家の方々は快く思われないんじゃ…?皆さんそのお立場の大切さは非常に分かっておられるでしょうし、若輩者の私がいきなり皇女になっても信頼できないと思うのですが…」

「いえいえ、そんなことはありませんよ、メリア様」

「???」


その時、メリアの言葉を聞いていた一人の貴族男性が言葉を発した。


「ハイデル様とあなた様が婚約された時、我々貴族はハイデル様の横暴的な振る舞いをあなたなら沈静化してくれるのではないかと期待しておりました。その期待はハイデル様の婚約破棄によって砕かれてしまったかに思われていたわけですが、あなたが皇女となるのなら話は変わります。我々は変わらずあなた様のその図太く物怖じしない性格を買っているのです。なので、メリア様が皇女となられるということでしたら、我々は全力であなた様の事をサポートさせていただきたく思っています!」


その言葉は、たった一人の貴族男性から発せられたものだった。

しかし、彼がすべての言葉を発し終えると同時に、会場中の貴族家たつから大きな拍手が沸き起こり、その考えがただの少数的な考えではなく、貴族家全体の思いであることが証明されていった。


「メリア、みんな君の事を期待しているようだが?」

「う……」


人々からの期待の視線が一身に向けられていき、メリアはやや恥ずかしそうな、困ったような表情を浮かべる。

しかし、図太いと評価されているだけあってすぐにその覚悟を決めたのか、彼女はそのまま顔を上げてエルクと視線を合わせると、そのままこう言葉を発した。


「わ、分かりました。私でよければそのお話、お受けさせていただきます…!」

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