第38話
「大変です!!大変ですよクリフォード様!!!」
「なんだ、朝から騒がしいな…」
「大変なんです!!本当に!!」
「なにがあったっていうんだ?これで大した話じゃなかったらお前ただじゃおかな…」
「メリア様が!!どこの誰とも分からない男たちに連れ去られてしまったと!!」
「…はぁ?なんだと?」
ハイデルが強引なやり方を決行した次の日の朝、騎士の城にはすでに事態の第一報が届けられていた。
この城は王宮における秩序を維持するという大きな使命があるため、なにか少しでも怪しい動きや不審な行動をとる者がいた場合、それらの情報がすぐにもたらされる体制となっていた。
タイラントは誰にも漏れないよう計画を秘密裏に実行したものの、それでも騎士たちの目をかいくぐることはできなかった様子。
「詳しく話せ」
「はい!どうやら昨日の夕刻ごろ、メリア様が学院所有の別荘に滞在していたところを何者かが襲撃し、そのままメリア様の事を連れ去っていったそうです」
「屋敷には誰もいなかったのか?フューゲルはどうしていた?」
「調べたところによりますと、その時刻フューゲル様はタイラントに呼び出されてレストランで食事を行っていたらしいです。その場にはメリア様は招待されておらず、二人だけでの食事会だったそうですが、どやらその隙を狙われたようで…」
「…なるほど、それじゃあ誰がやったかは簡単にわかるってわけだな」
「え??」
やや不思議そうな表情を浮かべる部下に対し、クリフォードは冷静な口調でこう言葉を続けた。
「これは内々の情報だが、近く王宮でタイラントとフューゲルは互いの能力を競うこととなったらしい。主催したのはハイデル様で、二人のうちどちらがより
「そ、そんなことが…?し、しかもその二人ってまんま今回の…」
「あぁ、ゆえにおそらく今回の一件を指揮する黒幕はタイラントか、タイラントに味方をする人間なんだろう」
「なるほどです…。メリア様を連れ去って、彼女の事が大切なら対決の場でわざと負けろとか、あるいはそもそも対決の場から降りろなどと迫れば、フューゲルはそうせざるを得なくなる…」
「フューゲルは慎重な男だからな。自分が大人しく負けることでメリアが無事に戻ってくるというのなら、迷わずその選択をとることだろう。俺にすれば考えられないがな」
そう言葉を発するクリフォードの様子は、ややイラッとしたような感情を感じさせた。
その様子を間近で見ていた部下たちはクリフォードに対し、それまで聞きたかった質問をストレートにぶつける。
「それで、クリフォード様はどうされるのですか?もしかしたらこの裏にはハイデル様も関わっているかもしれませんし、とりあえずは様子見ですか?」
「バカ言え。このままメリアの事を連中の好き勝手にされてたまるものか。ただでさえメリアがフューゲルのもとに連れていかれて俺はイライラしているというのに、今度はまた違う男に連行されていったんだ。これが素直に受け入れられるはずがないだろう。例えその裏にハイデルが関わっていようとも関係ない、俺は誰と戦うことになろうともメリアを守るだけだ」
言われるまでもない、といったような表情を浮かべながら、部下の質問にクリフォードは胸を張ってそう答えた。
部下の騎士もそう言葉を返されることは分かっていたようで、彼自身もどこかノリノリになりながらその答えを受け入れ、クリフォードのまっすぐな思いにほれぼれしていた。
「ちょっとまてクリフォード、本当にそれでいいのか?」
するとその時、一人の男がやや険しい表情を浮かべながらクリフォードの前に姿を現した。
「リーベ。一体どういう意味だ?」
「簡単な話だ。お前の事だから、この知らせを聞いてすぐにでもメリア様のもとに飛び出していくんじゃないかと思ってな」
「当然だろう。俺は彼女の騎士なんだからな」
「それは分かる。だが、ここでお前がメリア様の事を助け出したなら、タイラントとフューゲルの対決は無事に行われることとなる。そして間違いなくフューゲルは勝利を収めることになるだろう。すると、その後にどんな未来が待っていると思う?」
「なんだ、言いたいのはそんな事か…」
「もしかしたらお前の行動は、フューゲルとメリアの関係を深めることを後押しすることになるかもしれないぞ?ハイデル様に逆らってまでそんな結末を迎えることになっても、お前は本当にそれでいいのか?」
リーベの言葉はクリフォードに対する忠告のそれであるものの、その口調はクリフォードの事を心配する友のそれであった。
しかしクリフォードはその言葉からほとんど間を置かず、ほとんど表情を変えることなく、こう言葉を返して見せた。
「知った事か。俺は不当にメリアが他の男のもとに置かれているのが嫌で仕方ないんだ。余計な口出しはするんじゃねぇ」
クリフォードの言葉を受け、リーベはやや苦笑いを浮かべて反応を見せた。
その表情はどこか、クリフォードから返された言葉を聞いて喜んでいるようにも見て取れた。
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