第14話

クリフォードがタイラントを追い返してからも、タイラントによるちょっかいは続いていた。

しかしそのたびにクリフォードはタイラントの事を盛大に返り討ちにし、その都度タイラントは非常に情けのない表情を浮かべながら城から逃げ出していた。


そんな事が繰り返されていたある日の事、騎士の城の内部では二人の騎士がこのような会話を行っていた。


「クリフォード様、どうしてあんなにメリア様をお守りするんだろう?もしかしてなにか大きな恩があるとか?」

「おいおい、お前それ本気で言ってるのか…?あれは誰がどう見たって愛じょ…」

「分からないんですよねぇ…。一体二人の間にどんな過去があるんだろう?」

「はぁ…。にぶいなぁ…」


二人の騎士のうち、一人はクリフォードと同期であるリーベだ。

リーベは若き後輩騎士の言葉に盛大にため息をつきながら、やれやれといった様子を浮かべると、そのまま二人に関する過去の話を後輩に話し始めるのだった。


――――


それは今から10年ほど前の事。

クリフォードが11歳、メリアが9歳だった時の話。


当然まだまだ子供であるクリフォードはこの時は騎士ではなく、それどころか見習いですらなかった。

しかし彼の父が騎士であったため、彼もまた将来は父の後を継いで騎士となることはさだめられた運命であり、周囲の人々もそうなるのであろうと理解していた。

ただ、クリフォード自身はそうは考えていなかった。


「クリフォード!!いい加減にしろ!!どうして私の言う事が聞けないんだ!」

「俺は騎士なんて絶対に嫌だ!!父さんの後を継ぐなんてごめんだ!」

「生意気を言うな!!お前の体には騎士である私の血が流れているんだ!それ以外の将来を選ぶことなど許されない!」


クリフォードはよく父親と衝突していた。

というのも、彼の父は騎士であるだけあって非常に厳しい人物であり、それは仕事だけでなく日常生活においてもいかんなく発揮され、クリフォードは毎日のように父から厳格な言葉をかけられ続けていた。

クリフォードはそんな父親に反抗するかのように騎士の道を嫌がり、言う事を聞こうとはしなかった。


そんなある日の事、クリフォードはあるきっかけから貴族家主催のパーティーに参加することとなった。

招待されたのは騎士である父親であったが、その息子であるクリフォードにも参加する権利があったため、クリフォードは半ば暇つぶしのような感覚で参加を決めた。

偶然その日は父親は仕事であったため、パーティーに参加することは叶わなかったため、これは好機と言わんばかりにクリフォードは進んでパーティーに参加することとしたのだった。


――――


「(どうつもこいつも気持ち悪いほどへりくだりやがって…。そんなことしていったい何が楽しんだか…)」


元々貴族家に興味などなかったクリフォードは、せわしなさそうにあいさつ回りなどを行う貴族たちの姿を見て心の中でそう言葉をつぶやいていた。

クリフォードはそんな貴族たちをしり目に、会場に置かれたフルーツやお菓子などを片っ端から平らげていって、彼なりにこのパーティーを楽しんでいた。

しかしその時、彼のもとに一人の少女が突然姿を現した。


「こんにちは」

「…?」

「はじめまして。メリア・レースです」


メリアは9歳という年齢ながら、大人顔負けの美しい所作と上品な振る舞いでそう挨拶を行った。

その姿を見たクリフォードは、一瞬のうちにメリアに心を奪われる。


「あなたのお名前は?」

「クリフォード…」

「クリフォード様、よろしくお願いします!」


クリフォードから名前を教えられたメリアは、非常にうれしそうな表情を浮かべると、明るい口調でそう言葉を告げ挨拶を行った。

一方、クリフォードの方は相変わらず緊張したまま固まってしまっており、言葉を返すことができないでいた。

するとその時、メリアの両親が彼女のもとに現れ、そのままこう言葉を発した。


「こらメリア、余計な挨拶はするものじゃないと言っているだろう…」

「そうよメリア、あなたは自分より位が上の男性にだけ挨拶していればいいんだから…。ほら、もう行きましょう」


二人はメリアからの返事を聞くことなく、そのまま彼女を連れてクリフォードの前から去っていく。

結局二人はそれ以上会話を行うことは叶わず、互いに名前を教えあう事しかできなかった。

…しかし、その短い時間はクリフォードの中で非常に大切な記憶となり、彼の今後の運命を大きく変えることとなるのだった…。


――――


「そこから先は、たぶんお前も知っている話だろう。クリフォードはお父様に直訴した。自分の事をとびきり厳しく鍛え上げてくださいと」

「それってもしかして、メリアさんとの距離を縮めるため?」

「ああ。自分が騎士になって、さらにその中でも最上位の騎士長にまでなることができたなら、彼女のご両親にも男として認めてもらえるんじゃないかと考えられたんだろう。そしてクリフォードはその思いのままに、本当に騎士長にまで上り詰められたというわけだ」

「10年間もメリアさんのことを思い続けてきたわけですか…。クリフォード様って一途なんですねぇ」

「バカ、お前も少しは見習え」

「はーい…」


二人の騎士は二人のなれそめについて雑談を交わしたのち、そのまま自分たちの訓練に戻っていった。

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