第8話
「おお!来たかクリフォード!待っていたぞ!」
その場に現れたのは他でもない、クリフォード騎士長その人であった。
ハイデルの言葉を途中で遮った彼だったものの、そんな彼に招待状を出したのはハイデル自身であるため、その時点で自身の言葉を遮ったクリフォードの行いに対して嫌悪感を示したりはしなかった。
そしてそんなハイデルの隣で、その表情を大きくこわばらせている人物が一人…。
「(クリフォード様…!!本物だわ…!!噂は何度も聞いたことがあるけれど、こうして直接姿を見ることができたのは初めて…!話に聞いていた通り、本当にかっこよくて美しいお方…!)」
アリッサはハイデルの隣に立つ婚約者の身でありながら、クリフォードの姿に完全にその心を奪われていた。
しかしそれはこの場において彼女の身ならず、一人の人物を除いてほぼ全員の女性が同じことをその心の中で思っていた。
「(背すっごく高い…!スラッとされていてかっこいい…!)」
「(抱きしめられたい抱きしめられたい抱きしめられたい抱きしめられたい…!!)」
「(一体どんな善行を積めばクリフォード様と結ばれることが叶うのかしら……神様がいるならぜひ教えてほしい……)」
その場に現れると同時に、会場中の女性たちからの視線を一心に集めるクリフォード。
しかし彼の視線はこの場に現れてからずっと、ハイデルのみを見つめていた。
「遅れてしまって申し訳ない、ハイデル様」
「あ、あぁ……」
全く物怖じすることなく自分に話しかけてくるクリフォードの姿を前にして、どこかたじたじになってしまうハイデル。
「か、構わないとも…。いやいやそれにしても、この国最上の騎士であるお前に婚約式典に参加してもらえるとは、今日は本当に素晴らしい日だ」
「どうも」
「…それで、何が言いたったのだクリフォード。続けてみよ」
ハイデルはコホンと咳払いをした後、クリフォードに対してそう言葉を投げかけた。
それに対しクリフォードは、堂々と胸を張りながらこう言葉を返した。
「ここにいるメリアの事です。ハイデル様が婚約破棄したことで、彼女とはもう無関係になったと聞きまして」
「あぁ、いかにも。メリアはこのハイデルの隣に並び立つにふさわしい女ではなかったのでね」
「であれば、このまま彼女の事をもらっていきたいのですが」
「……は?」
一瞬、彼らを包む空気が完全に凍り付いた…。
「い、今なんと言った…?」
「もうメリアとの婚約関係は終わったのでしょう?なら俺が持って帰っても何の問題もありませんよね?」
「んんん!?」
聞き間違いでも勘違いでもないクリフォードの確かな言葉の前に、ハイデルはもちろんの事、その隣に立つアリッサや集まった人々までも巻き込んで、大きな反応を見せていく。
「ど、どういうこと??なんでクリフォード様がメリアの事をかばうわけ…??」
「わ、分からないよ…。二人に接点があることも知らないし…」
「そ、そもそもそれって大丈夫なの…?メリアさんって一応つい先日までハイデル様の婚約者だったわけでしょ?それが解消されてすぐにほかの男性と…それもクリフォード様と距離を縮めるだなんて…」
「クリフォード様!!!」
人々が驚愕の声を次々と上げる中、彼らの声を封じ込めるほどの声の大きさで、アリッサは叫ぶようにクリフォードの名を叫んだ。
「クリフォード様!ご説明ください!一体どうしてそんな最悪女の味方をされるのですか!その女にそこまでするだけの価値なんてありませんよ!ねぇハイデル様、あなたもそう思うでしょう!」
「う、うむうむ!!」
アリッサからの圧に屈するような形でハイデルは自身の首を縦に振り、彼女の言葉に答えて見せる。
そんな彼らに対し、クリフォードは真面目な表情を浮かべたまま、澄んだ口調でこう言葉を返した。
「このメリアはハイデル様とアリッサ様にご迷惑をおかけしたのでしょう?でしたら我々騎士団で彼女の事をあずかり、きちんと教育してあげようかと思うのですが、それについて何か問題がありますか?」
「そ、それは……。ですが、わざわざクリフォード様がそうされずとも!それなら私たちの方できっちりと彼女の教育を…」
「それには及びません。お二人はもうメリアの顔も見たくはないと言っていたではありませんか。決別することができて清々しているとも。あれは嘘だったのですか?」
「…!!」
クリフォードに対して反論の声を上げるアリッサだったものの、その言葉はすぐに封じ込められる。
…これまでメリアの事を一方的に攻撃し続けてきたことが、ここにきて握手に泣てしまった様子…。
「(気に入らない気に入らない…!なんでメリアの事をクリフォード様が助けるわけ!!こんな女ここから追い出されて国からも永久追放されるのがふさわしい運命じゃない!!なんでよなんでよ!!!)」
クリフォードが人々から絶大な人気を得ているという事は当然、彼女もよく知っている。
だからこそ彼女自身もクリフォードの事を好いており、そんな彼がメリアの事をかばおうとする態度を見せることに嫉妬心を感じてたまらなかった。
「ハイデル様、よろしいですね?」
「あ、あぁ…」
どこか会場の雰囲気を味方につけたようなクリフォードの姿を前にして、ハイデルもそれ以上の言葉を口にすることはできなかった。
「(ま、まぁ別に問題はあるまい…。メリアの事などいつでも料理してやることができるのだ…。クリフォードがどうしてメリアにこだわるのかは知らんが、ここは一旦あいつの好きにさせてやることにしよう)」
大きなどよめきの中に包まれながら、クリフォードは凛々しい姿で一歩、また一歩とメリアの元まで歩み寄り、その身を彼女の前に現した。
この場にいる全員が何が起きているのか信じられないといった様子を見せているものの、そんな中にあって当事者であるメリアだけはあまり大きく感情を動かされてはいなかった。
彼女は極めて冷静な口調で、目の前に現れたクリフォードに対してこう言った。
「クリフォード様…?私何も聞いていないのですけれど…?」
「お前に拒否権はない。いいから黙って俺に従え」
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