第2話
メリアの説得も叶わず、ハイデルは完全にその気持ちをアリッサのもとに向け、メリアの事を切り捨てる決断を行った。
ハイデルからそう告げられたメリアにもはや言葉を返すことは許されず、彼女はそのまま二人の前から静かに姿を消すほかなかった。
――――
「あらあら、ざまぁないわねメリア。今まで王宮で好き勝手やってきたみたいだけど、それももうおしまいみたいね?」
部屋から出てきたメリアに、まるで彼女の事を追いかけてきたかのような様子でアリッサがその背中から言葉をかけた。
「そんなすました顔をして、本当は泣きたくて仕方がないんでしょう?悔しくてたらまないんでしょう?第二王子様との婚約を私に奪われちゃったのよ?まぁどうしましょうどうしましょう」
「……」
「あら、それもそうよね。何も言えないわよね。だってもうあなたは第二王子の妃ではなくなって、ただの一般人になっちゃったんだものね。それに対して私は第二王子の妃になることが決まった身。余計な事なんて言えないわよね?だって私の方があなたの何百倍も偉いんだものね?」
「……」
メリアが何も言葉を返さないのをいいことに、非常に上機嫌な様子で言葉を連続的に繰り出していくアリッサ。
そんな彼女に対し、静かな口調でメリアはこう言葉を返した。
「あなたも、今ならまだ取り返しがつくわよ?ハイデル様を誘惑するようなことは今すぐやめて、自分が元いた場所に戻ったらどう?後悔してからじゃもう遅いわよ?」
「…?」
メリアはここでも、ふざけるような雰囲気は一切見せず、完全にまじめな表情でそう言葉を告げた。
しかしそんな雰囲気だからこそ、アリッサはすぐには彼女に言われたことが理解できず、それから少しの間を置いたのち、楽しくて仕方がないといった表情を浮かべながらこう言葉を返した。
「あははは!!何を言い出すかと思えば…。せっかく第二王子様との婚約にありつけたのよ?それをどうして自分から捨てなきゃいけないわけ?やっぱりあなたどうかしてるわ。そう言ったら私が本当にハイデル様の事をあきらめて、自分が婚約者に返り咲けるとでも思ったわけ?そんな意味わからない事言ってるからハイデル様からも捨てられちゃったんじゃなくって?」
「私は別にそれでもいいんですよ?ただあなたの事を思って言っているだけで…」
「もういいわ。なんだかあなたと話をしているとイライラして仕方がないもの」
自分からメリアを挑発しに来ておいて、思った通りにならなければこうして一方的にイライラを爆発させるアリッサ。
メリアに向けて放った言葉が最も刺さるのは自分自身であろうに、彼女自身は全くそんなことなど思ってもいないのだった。
「あなたがどう悪あがきをしようとも、私がハイデル様の隣に立つことはもう決まったこと。まぁせいぜいこれから追放される様を楽しませてちょうだい、元婚約者さん♪」
「……」
アリッサはそう言葉を吐き捨てると、元いた部屋に向かって歩き始めていった。
そして部屋の中に戻っていったのち、中から二人が互いの体を重ねるような声が漏れ聞こえ始め、メリアは静かにその場を後にしていった。
――――
…
……
………
「ねぇハイデル様、私新しいドレスが欲しいの」
「ドレス?どこかに着ていくのかい?」
「もちろん。これからパーティーに行くとき、私はハイデル様の隣に立っているわけでしょう?ならハイデル様に恥をかかせることのないように、きれいでかわいらしい私でいないといけないでしょう?」
「まったく、君はどこまでこの僕を喜ばせれば気が済むのか…。いいとも、君が望むものを望むだけ買ってあげようじゃないか♪」
「うれしい!!!ありがとう!!!」
互いに体を重ねながら、二人はそう言葉をかけあう。
ここは寝室でもなく休憩室でもなく、時の王子が政治を司るために設けられた神聖な王室なのだが、二人にとってはそんなこと関係ないといった雰囲気をひけらかす…。
「ねぇねぇ、ハイデル様。あなたの中では私が一番なのでしょう?そうなのよね?」
「決まっているじゃないか。君以上の女性などこの世界にはいない。どんな言葉をもってしても、君の事を形容することはできないだろう。それくらいに僕にとってはかけがえのない存在さ」
「まぁ、うれしいわ!」
ついさっき婚約破棄を告げたとは到底思えない雰囲気を醸し出しながら、ハイデルはアリッサに対してそう言葉をかける。
アリッサもまたそんなハイデルの様子に酔いしれ、二人は完全に自分たちの世界に入り込んでしまっている様子だった。
「それでハイデル様、メリアの事はどうするつもりなの?」
「特段決めてはいないが…。なにかあるのか?」
「私、あの子が本当に嫌いなの…。だからとびっきり嫌な思いをさせてやってほしいわ」
「君がそう言うなら、そうしよう。なにか良い罰があればいいのだが…」
メリアの処分を巡り、互いに考えを巡らせる二人。
その時ハイデルの脳裏に、ある一つのアイディアが浮かび上がった。
「そうだ、こういうのはどうだ?」
ハイデルは自身の体を密着させたまま、アリッサの耳元で思い浮かんだアイディアを披露する。
それを聞いたアリッサは、愉快でたまらないといった表情を浮かべつつ、こう言葉を漏らした。
「……あら、それは面白そう…!彼女の苦しむ顔が今から楽しみだわ!」
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