私を追い出しても大丈夫だというのなら、どうぞそうなさってください
大舟
第1話
「メリア、君との婚約は今日をもって終わりにさせてもらうことにした」
きらびやかな装飾がこれでもかというほどに施されている王宮、その中心に位置する第二王子専用の部屋において、時の第二王子であるハイデルはそう言葉を発した。
「婚約破棄、ということですか?」
「まぁ、早い話そういうことになるな」
そして婚約破棄を告げられたのは、たった今までハイデルの婚約者だったメリアだ。
「えっと…。どういうことでしょう?」
いきなりそんな言葉をかけられたメリアは当然、ハイデルに対して説明を求める。
そんなメリアの言葉を聞いて、ハイデルはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情を浮かべながら、得意げな口調でこう言葉を返した。
「口で説明するよりも、見てもらった方が早いだろう。実はもうすぐそこまで呼んでいる」
「…?」
「アリッサ、入りなさい」
するとハイデルは、なにやら部屋の外に向けてそう言葉を発した。
そしてそんな彼の言葉に導かれるように、一人の人物が部屋の扉を開け、二人の前にその姿を現した。
「お呼びでございますか、ハイデル様」
「まぁこっちにこい。はやくはやく」
現れた女性は、その名をアリッサと言った。
派手めな髪形にその容姿、きらびやかなアクセサリーに身を包み、自分に自信満々な雰囲気を発するそのたたずまいは、まさにいろいろな意味で”王宮令嬢”と表現するにふさわしい姿をしていた。
アリッサはそのままハイデルの元まで歩み寄ると、彼の両手の中に納まる態勢となり、二人はその体を密着させながらメリアに対して言葉を発する。
「メリア、この場で君に紹介させてもらおう。君に代わって、この僕の新しい婚約者となるアリッサだ。どうだ?可愛らしいだろう?」
ハイデルに紹介される形となったアリッサは、彼が発した言葉に続いて自己紹介を始める。
「はじめまして、アリッサと言います。よろしくお願いしますね、元婚約者のメリアさん♪」
アリッサは完全に勝ち誇った表情を浮かべながら、メリアに対してそう言葉を放った。
その雰囲気はどこからどう見てもメリアの事を挑発しているそれであったが、メリアはそんな彼女の挑発には乗らず、冷静な口調でこう言葉を返して見せた。
「はじめまして、メリアです。…それで、あなたとハイデル様とのご関係は一体?」
「あぁ、それは僕から話をさせてもらおうか」
ハイデルは相変わらずアリッサの体に手をまわし、上機嫌な表情を浮かべながらこう言葉を発した。
「実は彼女と僕とは年も出身も同じでね。いわゆる幼馴染というやつかな?長らく彼女とはご無沙汰だったのだが、最近彼女の方から熱烈なアプローチを受けてね。君との薄味の関係にへきへきしていた僕にとってそのアプローチは非常に心地のいいものだった。だからいっそのこと、君との婚約を取りやめて彼女との未来を選ぶことにしたんだ」
特に悪びれるような様子もなく、意気揚々とした雰囲気でそう言葉を告げるハイデル。
しかしそのようなことを告げられてなおメリアはその気を落としたりする様子はなく、むしろ彼の事を心配するような口調でこう言葉を返した。
「もともとハイデル様の方から私にお誘いがあったこの婚約ですけれど、本当に取りやめてしまわれても大丈夫なのですか?きっと後から取り返しのつかないことになり、彼女を選んだことを死ぬほど後悔されることになるかと思いますよ?」
メリアの表情にうそは全くなく、極めて真剣な表情でそうハイデルに言葉を告げた。
しかしそんな彼女の心からの言葉はハイデルには届かず…。
「まぁ、負け惜しみを言いたくなるのも分かる。しかしもう決まったことなんだ。貴族令嬢の中でもなかなか悪くない容姿をしていた君との婚約、そこに悪い気はしてなかったが、それも最初だけ。一緒にいて君には華がないというか、僕の隣に立たせる人物としてはどこか魅力に欠けるんだ。その点アリッサはこの美貌にこの愛らしい性格、そして僕の事を心から愛してくれているその気持ち。それらすべてを取って、完全に君の上を行っていることは揺ぎなき事実なんだ。…むしろ、今になって僕とのことを後悔しているのは君の方なのだろう?僕にもっと尽くしていればよかったと、その心の中では悔やんで仕方がないのではないか?」
「いえ、私が言っているのはそういう事ではなく、私を捨てられたらハイデル様は間違いなくお困りになられて…」
「うるさい娘ねぇ…。分からない?あなたは捨てられたの。捨てられた後に泣いたりわめいたりしようと、もう拾われることはないの。すんなり諦めたら?」
アリッサもまた、メリアの態度は負け惜しみに違いないととらえたのか、その口調にイライラを感じさせながらそう言葉を発した。
そしてそんな彼女に続き、ハイデルも改めてメリアに対して婚約破棄を宣告する。
「なにを言おうとも事実は変わらない。メリア、君との関係は今日をもって終わりだ。早くここを出ていく準備を進めてくれたまえ」
一方的にそう言葉を告げるハイデルだったものの、その判断が後の自分の運命を大きく狂わせていくという事など、この時はまだ知る由もないのであった…。
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