人を呪わば穴二つはマジだった!

卯野ましろ

人を呪わば穴二つはマジだった!

 昔々ある職場に、いつも怒鳴り散らしているパートリーダーの女がいた。その女は言葉遣いが汚く、怒っていなくても声が大きかったため、たくさんの従業員から恐れられていた。

 とにかく誰にでも容赦のない女であった。障がい者スタッフに「バカじゃねーの?」と怒鳴る。同じ部署の女性に「お前、毛深いな!」と大声で言う。失敗したパートたちを「もう仕事に行きたくない」という気持ちにさせるほど責める。自分よりも先輩(仕事も人生も)であるパートに対して「そっちの都合に合わせられないんだからね!」と叫ぶ。更に直接言うだけではなく、本人がいないところでも悪口を言う女であった。

 そんな怖いパートリーダーを「あの子は、はっきり言ってくれるから良いんだよ!」などと評価する者もいた。パートリーダーを仕事熱心な人間だと捉えていたのだろう。しかし類は友を呼ぶのか。その者たちも全員、曲者だと周囲から思われていた模様。

 パートリーダーが仕事熱心と思われる理由は、推し活のためだったと考えられている。その女は男性アイドルが大好きで、よく休憩時間などに推したちについて仲間に話していた。推しを楽しく語る姿は、まるで恋する乙女のようだったらしい。そんなパートリーダーにギャップ萌えした者がいるかどうかは知らない。しかし「そんなトシ(三十代後半)で独身でアイドルの追っかけとか気持ち悪いじゃん……」と否定的な者は存在したようだ。


 ある日、仕事も推し活も忙しいパートリーダーは、同じ部署に所属するベテランパートと口論になった。体調不良のベテランパートに対し「じゃあ帰ればいーじゃん!」とパートリーダーが怒鳴ったのである。つらそうな先輩への叱咤激励ではなく、単なる八つ当たりだったらしい。その冷たさと無礼な態度が許せなかったのか、いつも穏やかなベテランの彼女も黙っていられなかったようだ。普段は仲が良いと思われていた二人は大喧嘩になったそうである。

 数日後、ベテランパートの女性は力のない笑顔で出勤した。その何だか元気のない原因は、足に怪我を負ってしまったからであった。仕事ができるくらいには体調も怪我も良くはなっていたが、それでも彼女は暗かった模様。この件について「リーダーと争った罰ね」と自分の行いを反省していたようだ。

 その後日、驚くことがあった。パートリーダーも足を怪我してしまったのである。この状態で出勤したら迷惑なだけ、と考えたパートリーダーは数日間欠勤することになった。それでも職場への復帰は早かった。まだ完治していないのに、パートリーダーは椅子を用意して、それに座って仕事の監督をすることにしたらしい。

 しかし新たなる悲劇が起こった。椅子に長時間座っていたからか、パートリーダーはエコノミー症候群となったのである。復帰したばかりだというのに、また仕事を休むこととなったパートリーダー。怒声が響かない職場は、かなり静かになったようだった。そして休んでいる間、また新たな病を患ってしまったのだ。

 それでもパートリーダーは、場所を変えて怒鳴っていたらしい。同じ部署に所属するパートたちが、リーダーを気遣って電話をしたそうだ。パートリーダーは通話中、同居している家族に「うるさい! あたし今、電話しているんだから! 静かにしてよ!」と怒っていたとのこと。

 パートリーダーの怒りの原因は、親からのダメ出しにあった模様。怪我や病気で苦しんでいる娘に「こういうことがあるなら結婚しておけば良かったんだろう」とパートリーダーの親が言ったらしい。しかし対する娘は「それとこれとは別でしょ!」と負けずに返したようだ。

 最終的にパートリーダーは「いつ治るか分からない」ということで、長年お世話になっていた職場を去った。パートリーダーだった女は仕事を辞める際に、職場に菓子折りを贈ったようだ。だが、その焼き菓子を貰わないスタッフもいれば、受け取った菓子を食べずに粉々に砕いて捨てたスタッフもいたらしい。

 元パートリーダーが職場を去った後も連絡を取っている者はいたようだ。そのスタッフたちの話によると、ますます病気は悪化していったとのこと。また面会した人々は「職場で見せていた迫力は全然なくなった。すっかり女らしくなっちゃって……」と驚いたらしい。

 

 しばらくして、その部署の新しいパートリーダーが決まった。新しくパートリーダーとなった女性は心優しく、誰かを怒鳴ることも意地悪することもなかった様子。

 それに加えて仕事熱心な彼女は、間もなくチーフリーダーに昇進した。人気者のチーフリーダーは、今でも明るく元気に働いている。

 一方、元パートリーダーの病気や怪我は治ったのか、今も生きているかどうかは不明だ。


 私に色々と語ってくれた女性は、この出来事について「人に意地悪していると、こういうことになるの」という言葉で話を締めた。ちなみに、その女性は「そっちの都合に合わせられないんだからね!」と元パートリーダーに怒鳴られた、別の部署にいたベテランパートの方である。

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