ネガティブ勇者の冒険譚
浅倉 茉白
第1話
「勇者マコよ。そなたに魔王の討伐を命じる」
何で自分が。そう思いながら城で王様の話を聞いていた。
光栄とかそういう気分になれない。ぼくは強くない。きっと捨て駒に選ばれたんだと思った。
でも死ぬのは怖い。なんだかんだ怖い。じゃあどうすればいいか。この任務を断るか。それとも引き受けたフリをしてどこかへ逃げるか。
そんなことをして、バレたらどうなることかわからない。こんなぼくを勇者と呼び、突然、魔王討伐を命じるくらいだ。きっと性根は怖い人なんだろう。
そう思いながら、しばらく黙っていたぼくに、王様が問いかける。
「ん、どうした? 返事は?」
「いや、その。何でぼくが選ばれたのかなって」
「マコよ。これはそなたの運命だ。マコが思うより、マコは強い。これまでそなたを育ててきたワシにはわかるのだ」
「はあ……」
それは親バカというやつではないか。本当の親ではないみたいだけど。
ぼくは物心ついたときにはこの城にいた。でもこの城で生まれたわけではないらしい。育てられたと言っても、次の王となるような英才教育を受けてきたわけでもない。
「それでは……行ってきます」
ぼくにあるのは、いつも何となく場違いなんじゃないかという罪悪感。
この任務も、ぼくではないだろうという気持ち。兵士たちや召使いもどこか、ぼくに対する目線が合わなくて、おかしい気がする。少なくとも、勇者を讃えて送り出すような高揚感はない。
ぼくはここを、追放されただけなのか? わからないけど、ぼくなりに旅を始めるしかない。
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