第四話「田舎者たち」
「でも、ボディーガードになるとは言ったけど、その代わりに……」
壊斗はさっきとは一変して真剣な表情になる。
「この世界のことを教えてくれよ」
壊斗がこの少女、エメルのボディーガードになった理由の一つは、異世界の情報通が欲しかったからだ。
「ほ、ほら言っただろ? 俺は田舎モンだからさ。故郷から出たことがないから、この世界の勝手が分かってないんだ」
田舎者設定の便利さを痛感した。
「うん! 私が力になれることなら、何でもするよ!」
それから、気になっていたことを片っ端から聞いてみた。魔法やギルドといった異世界にありがちな設定について。ドラゴンや魔王の有無など。しかし、どれを聞いても、分からない。や聞いたことがない。等の回答しか返ってこず。
何だ、この子も田舎の子なのか。って、俺のは設定か……と心の中でセルフツッコミを入れた。
ただ、だからといって「はいさよなら」と別れることは出来ず。
「これから、どうすればいいんだ……」
気がかりなことが何も解決せず、更に不安が募るばかりだった。
壊斗は必死に頭を回転させる。こんな時、異世界転生者ならどうするか。どこへ行くのか。
だが、いくら頭を巡らせても何も思い出せず、クソッ! こんなことならちゃんと見とくべきだったッ!! と激しく後悔した。
「これから、どうする?」
壊斗はダメ元で、エメルに聞く。
「……分かんない」
予想通り、期待していた回答は得られなかった。
しばらく二人で案を出し合ったが、中々良い案が浮かばず悩んでいた頃。壊斗がとある案を思いつく。
「どこか人の少ない田舎で、住み込みで働けるところを探せばいいんじゃないか? そうすれば、金も稼げるし、護衛隊とやらに見つかることもないだろ」
「……そっか! 他の人たちに紛れて生活すれば、見つかりようがないもんね!」
「じゃあ、早速条件の合う仕事を探さないとな。どこか仕事を紹介してくれる場所は知ってるか?」
エメルは目を瞑り、首を横に振る。
「じゃ、通りすがりの誰かしらに聞くしかないな」
…
「え、そんなところは無い?」
壊斗は、まず初めに声を掛けた、獣人とはまた違う、小柄且つがっしりとした体型の男に尋ねたが、キッパリとそう告げられた。
「あぁ。普通は家業を継ぐか、あっても知人の紹介を受けて別の業種に行く。とかだろ」
「冒険者ギルドとかも……?」
「なんだそりゃ」
「へぇ……」
今まで見てきた異世界ものとは随分勝手が違うんだなぁ。と心の中でぼやく。
「おぉん」
戸惑う二人を目の前に、男も唸る。
「……お二人さん、何か訳ありか?」
顎に手を当てて無精髭を撫でる。
「は、はい……実はそうなんです。な?」
「う、うん!」
壊斗に乗せられたエメルもすぐに悲しげな表情を取り繕う。
「あぁ〜そうだったのかぁ。だったら、うちで働くか?」
「え、良いんですか?」
「あぁ、最近は建築業に就きたがる奴も少なくて、息子たちも継ぎたくねぇって、親戚の商業に就いちまったから、人手が減る一方でよ。アンタみたいな若者が力を貸してくれるってんなら、願ったり叶ったりよ」
「あ、でも俺ら……住み込みで働けるところが良くて……」
壊斗は自分の頭に手を当て、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
「心配すんな! そこんとこは考慮するさ! 俺たちの住んでるところから少し外れたところに、使われてない一軒家があるんだ。そこを提供するよ。ホコリまみれだろうが、掃除すれば使えるだろう。大きさも申し分ない。掃除なら、俺たちも手伝うぜ?」
男は肩を回しながらニヤッと笑った。
壊斗は親切な男に感謝をしつつも、少し怪しさも感じていた。こんな上手い話があるのだろうか。と。
ただ、今の自分なら、多少のことなら解決出来るだろうと考え、ありがたくその条件を飲むことにした。
「あ、そうだ。ちょっと待ってろ。すぐ戻る」
「分かりました」
数分も経たないうちに男が戻ってきた。その間、壊斗は再び護衛隊が来ることを想定して、必死にエメルを自分の後ろへ隠していた。
「何を買ったんですか?」
元々男はサンタクロースの様に袋を担いでおり、新たな袋を腰に巻いていた。
「三人分の水と食料だ。よし、早速俺たちの村へ案内する。先は長いぞ」
それから三人は、適度に休みつつ、片道三時間かけて彼らの住む村に到着した。
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