成り行きで異世界転生
乙坂創一
序章
プロローグ 「ordinary days」
とある日の学校帰り。電車内の通路を歩く
「奥まで来たけど、席空いてね〜な」
「もうここで良いんじゃね?」
「だな〜 どうせ他の車両も空いてねぇだろ」
他の皆も賛同し、ドア付近に集まった。電車に揺られながら、他愛もない雑談をして過ごす。
「着いたか。また明日な」
『じゃあな〜 壊斗!』
一同口を揃えてそう言い、手を振って見送る。
ピピピピッと鳴るアラームの音で目が覚める。
「ふわぁ〜 眠ぅ」
大きく背伸びをし、起床する。おもむろにスマートフォンを開くと、午前八時を示していた。
「……また高校の頃の夢か」
さっきの夢の通り、ごく普通の高校生活を謳歌してきたのが、
華の大学生活では、少しでも家にお金を入れる為にバイト三昧の日々を送っている。そのせいで大学で出来た新しい友達と遊ぶのは疎か、中高時代の友人たちともロクに会えてない。その上、時給の高さに惹かれ、夜勤を多く入れすぎたせいで授業はほぼ寝ている始末。娯楽の無い、退屈な日常。故に、最近はあの普通で、一番楽しかった頃の夢を頻繁にみるのだ。
起床後、洗顔と歯磨きを済ませ、母親が作り置きしていった食事のラップを剥がし、一人黙々と朝食をとった。
今日は八月十一日。夏休み真っ只中。いくら休みだろうと、極力健康的な時間に起床し、ジョギングをする。それが日課になりつつある。ジョギング終わりのシャワーの後に、二度寝してしまっては元も子も無いが。
「よし。着替え完了」
白いパーカーに白のシャツ、生地が薄めの青暗いジーパン。いつも通りの質素でラフな恰好をして玄関のドアを開けた。
「うわ、外あっつ……」
玄関を開けた瞬間、やけに強い日差しに目をすぼめ、押し入れから帽子を出しておけば良かったと後悔した。
暫く歩いていると、なんの前触れもなく道路標識の『止まれ』が折れ、壊斗目掛け一直線に倒れ込んで来た。
「あっぶねッ! 当たったら普通に死ねるな……」
壊斗は、間一髪避けることに成功した。もし避ける事が出来なければ、怪我だけでは済まなかっただろう。今日は厄日だ。と思い、いつものコースから道を変え、最寄り駅を一周して帰ろうと考えた。
歩きながら壊斗は、最近起きな身の危険を感じた出来事を思い返した。
そういえばここ最近、命の危機に晒されることが多かったよな……銭湯で思いっきり足滑らせて転けたり、夜勤明けにナイフ持った不審者と遭遇したり。今の標識だってそうだ。ツイてねぇな。
ただ、そのどの出来事からも奇跡の生還を果たしている。
「はぁ、運が良いのか悪いのか……」
そんなくだらないことをボーっと考えていて、周りが見えていなかった。いや、見えていないにも程があった。
特急列車の接近に全く気付かず、そのまま撥ねられた。轢かれる瞬間、辺りが急激にスローに見えた。
壊斗は線路に呆然と立ち尽くしていたようで、その事に気づいた時にはもう手遅れだった。ただ、壊斗には遮断機を乗り越えた覚えは一切無い。踏切の音にすら気付かないなんてありえないはずなのに。それよりも、普通、線路に人が立っていたら、どの電車でも緊急停車するだろう。
それなのに、安全装置すら作動せず、壊斗はそのまま電車に引き摺られた。体感したことの無い感覚が押し寄せてくる。突然耳に破裂音が鳴り響き、そこから音が聞こえなくなった。
四肢が爆ぜ、身体の部位が四方八方に吹き飛び、重たい車輪で肉や皮、骨までもがすり潰される。ここで目が見えなくなった。砂利は血が混ざり合って赤黒く固まり、血飛沫や油で電車を染めた。
朦朧とする意識の中、思考をすることは不可能だった。
こんなにも多くの事が起こったというのに、それら全てはたった一瞬の内に起きた出来事だった。ただ、幸いな事に痛みを長時間味わうことはなく、すぐに壊斗は意識を失った。
再び意識を取り戻した時、壊斗は真っ白な部屋にぽつんと立たされていた。
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