悪役令嬢♂でございます。
拝詩ルルー
第1話 異世界転生
俺は辻坂
道路に飛び出した子供を助けたら、代わりに
気づいたら真っ白な雲の上。
俺の目の前には女神様がいる、っていう状況だ。
胸元がガッツリ開いた白いドレスを着た女神様だ。
ウェーブがかった長い金髪に、青い瞳。ぷっくりと厚めな唇に、口元には小さな黒子——あらゆるセクシーを詰め込んだ、ヴィーナスというか、モンローといった感じの女神様だ。
女神様が、ゴテ盛りネイルの人差しをピンッと上げて、説明を始めた。
「あなたは子供を助けて、身代わりに亡くなりました」
「あ、やっぱりそうなんですね」
「その慈愛溢れる清らかな心を見込んで、あなたにお願いがあります。私の世界で生まれ変わってもらいたいのです」
おっ。これが噂の異世界転生ですか? 俺TUEEEですか? 最強ものですか? チートはありますか? ハーレムは?
「ハーレムはありませんけど、チートはありますよ。最強は何を基準にするかで変わりますし、イキって俺TUEEEするかどうかはお任せします」
女神様は、にこやかに微笑まれた。
……こっちの考えがバレてるぅ! しかも、大人の対応で流されてるし!! めっちゃ恥ずかしいやつ!!!
俺は頬をひくつかせながら、女神様の話の続きを聴いた。
「代わりにあなたには、こちらの世界で出来うる限り高位の身分と最良のスキルを授けましょう」
「えっ? スキルは選べたり……」
「しません」
俺がどんなスキルをもらえるのかワクワクして尋ねると、女神様は笑顔でキッパリと却下した。
ゆ、夢がねぇ……!!!
「……それで俺は何をすれば? 何か目的はあるんですか?」
「目的ですか…………ダイジョーブ。流れに任せてくれれば」
女神様はにっこりと笑った。誤魔化すように甘い声で囁くように言う。
……なんか「大丈夫」が軽くね? 全然大丈夫じゃないんだけど!? 笑顔なんかじゃ騙されねぇぞ!!
「あなたなら私の目的にも合致しそうですし、何とかなるでしょう」
女神様は白い手を頬に寄せて、何やらサラッと呟いた。
「へ? だからその目的は? それに何とかって……」
俺がさらに尋ねようとすると、
「それでは、現世へ行ってらっしゃ〜い!」
女神様がバイバイと小さく手を振ると、俺の下にあった雲がパッと消えた。
「ふざっけんなぁあぁあぁぁああ……!!!」
俺は下界に落とされながら、叫びまくった。
***
「はっ!!?」
俺はがばりと跳ね起きた。
はじめに目に入ったのは、やけに豪華な部屋だった。「高位の身分」での転生は嘘ではなかったらしい。
「もう、あの女神マジふざけんな。説明もなくこんな所に放り込みやがって! 無責任にも程があるぞ!!」
とりあえず俺は現状把握のために例の言葉を口にすることにした。こういう時のお決まりの呪文だ——ただ、不発だったら、めちゃくちゃ恥ずかしいやつだ。
「…………ステータスオープン…………」
しーんと静まり返った部屋に俺の低い声がこだました。
「うぎゃぁ!! ステータスオープンがねぇ!!!」
俺は恥ずかしすぎて、顔を両手で隠して、ふかふかのベッドの上でゴロンゴロンと転がった。
上流階級用の広々ベッドだ。二回転半はいけた。
ふと、自分の髪が長いことに気づいた。金色の柔らかくて綺麗な髪だ。
手を見れば、白く細く、肌はきめ細やかで、まさに「白魚のような手」だ。
俺は、パッと目に入ったドレッサーの鏡に駆け寄った。
そういえば、この部屋のインテリアもピンクや赤を基調としていて、やけに女の子らしい……
俺が鏡で自分の姿を確認して叫ぼうとした瞬間——
「おはようございます。エリザベトお嬢様」
コンコンッとドアをノックする音がして、侍女らしき女性の声がした。
「どうぞ〜」
俺は思わず裏声で返事していた。もうどうにでもなれだ!
ドアを開けて入って来たのは、きちりとメイド服を着込んだ綺麗な女性だった。
「本日は魔法学園の卒業パーティーですよ。お嬢様をピカピカに磨かせていただきます」
——え? 今、なんて?? 俺、いきなり詰んでないか???
この手の世界で「卒業パーティー」といえば、大事なイベントの日——大抵、婚約破棄なり、国外追放なり、ざまぁが発生する日だ。
何か事件が起こりそうな匂いがプンプンする……
とにかく、落ち着いて鏡の中の美女を見れば、どこかで見たことある顔だった——そうだ! 妹がやってた鬼畜乙女ゲームだ。
『恋のセレニティ〜魔法学園のシンデレラ〜』——通称『恋セレ』だ。
元庶民で、希少な光属性の魔力に目覚めたヒロインが、男爵家の養女になって魔法学園に入学。学園イベントをこなしながら、攻略対象者との好感度を上げて絆を深めてハッピーエンドを目指すという、ここまで聞く話だとよくある乙女ゲームだ。
ただ、選択肢のトリッキーさと攻略対象者のクセの強さ、選択ミス一つで即バッドエンドという初見殺し満載で、ゲーム難易度はかなり高い。
だが、ストーリー展開は面白く、攻略対象者の美麗スチルも人気絵師が手掛けたらしく、コンプリートするために世の乙女ゲーマーたちがイライラとぼやきながらも攻略していく、なんだかんだ言っても愛されている鬼畜ゲームだ。
なんで俺がこんなに詳しいかというと、うちの妹が散々、家の居間で叫んでたからだ。
選択肢ミスって悲壮の雄叫びをあげ、新しいスチルを手に入れれば歓喜の奇声をあげていた——そりゃあ、「どんな内容だ?」って気になって仕方がなくなるだろう。自分じゃやらなかったが、ゲーム実況だけはチェックした。
で、今の俺は「王太子ルート」でライバルとして登場するエリザベトお嬢様だ。いわゆる、悪役令嬢だ。
二番目に可愛いなって思ってたキャラに転生して、正直ドキドキしている。
エリザベトお嬢様、いや、俺が麗しすぎる。
寝起きでまだ何もお手入れされていないはずなのだが、絹のようなつるりとした肌をしている。人形のような端正な顔立ちで、パッチリと大きな瞳は南の海のような緑がかったマリンブルー。ゆったりと波打つような金髪の髪は艶やかで、さらりと輝いている。
うん、お美しい。
そして、エリザベトお嬢様といえば、話題の魅惑のスタイルは……
待て! 俺、いや、エリザベトお嬢様の胸が無いぞ、全く。つるぺただ。
非常にいや〜な予感がして確認してみたら……あった。ご令嬢にあるまじきモノが……
ご令嬢♂じゃねぇかっっっ!!?
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