第30話 心の置き所が分からない

世界に言葉が響く。

なんで?


《大神候補茶太郎により、人狼ルー・ガルー族は赦免され、狗神へと進化》


「素晴らしい!さすがチャタロー様です」


褒めてくれてありがとう、ぷらねさん。

紗枝ちゃんは「やった、やった」と小躍りしている。


うん、そうかぁ、頭の中に響いた声に違和感があるのは私だけかぁ。完全置いてけぼりだな。

まぁ、この空気感には慣れている。若い子と話しているとジェネレーションギャップで良くこんな状況に陥った。

だから心の置き所も分かっている。大丈夫……ちょっと心の中に木枯らしが吹くだけだ。


「茶太郎様、ありがとうございます。忠誠を誓います」

「……………………」

「茶太郎様、ありがとうございます。お、私も忠誠を誓います!」

「――――――ロボ?」

「はい!ロボです」

「そうなんだぁ。あの『俺』で良いよ?あと忠誠とか誓わなくて良いよ。自分を大事にして。ね?」

「はい!」

ロボは尻尾をぶんぶんと振って嬉しそうだ。頭にある耳もぴょこぴょこ動いている。


えっとロボは、男の子から青年になったね。そうだねぇ、15歳から22、3歳になった感じ?

もともとイケメン犬耳な男の子だなぁって思ってたけど、精悍な青年になったね。日本でアイドルになったらモテるだろうなぁ。あ、ニコッと笑ったら牙がある。ちょっと大きい八重歯みたいだ。それも良いね。


そして、うん、その横で微笑んでいるのが……はいはい、流れでいくと、うん、ビアンカだね。

ビアンカさん……犬から……人になったね。

しかも超絶美形。


犬の時に髪の毛みたいだなぁって思っていた頭の毛が、うん、髪になったね。

真っ白なのは変わらないけど、大河原敏行にあった白髪とは違って、すこし青みがかっていて、さらさらしていて綺麗だね。


そして、その顔は……美形すぎでしょ!


元の世界で私は何度か芸能人を見かけた。

圧倒的なオーラ。バランスの良い体つき。そしてなんでそんな小さいの⁉と驚いてしまう頭!


大河原敏行の手足は短く、更に頭は大きかった。同じ人類なのにこんなに違うのだと思った。


そしてビアンカさんの美しさは芸能人のそれと変わらない。いや。以上かもしれない。

見たことないけど、ハリウッド女優とか、世界を股にかけて活躍している人は、こうかもしれない。と思えるほど圧倒的な美しさ!まさに傾国の美女!


こんな美女が私に忠誠を誓う?

いや。犬で良かった。本当に良かった。人間だったら、その魅力にやられていたかもしれない。


あれ?この世界では犬と人は結婚できる。

いやいや、だめだ。社長が秘書に交際を迫っているみたいじゃないか!

そんな人間を非難の目で見ていた私なのに!

でも気持ちが分かってしまう!だって美人すぎだし、私を見つめる目が切ないし!

もう、もう!もう――!!!美人って罪!


「茶太郎様、私にご不満がおありですか?」

「え……?」


そんなつもりはない。不満なんてまったくない。あなたが綺麗すぎてパニックなんです!と言えない。

だって日本人だから!昭和生まれのおじさんだから!口下手なんです!

素直に面と向かって、女性を、しかも容姿を褒めるスキルがないんです!セクハラだし、モラハラだし、とにかく無理‼︎


「ビアンカがきれいだから、茶太郎は照れてるんだよ」


ああ、紗枝ちゃん!代弁してくれてありがとう!

私には紗枝ちゃんが神様に見えるよ!

あ、もしかして、山根くんが口癖のように言っていたって、これのこと?


ビアンカさんは頬を染めて――うぐっ!綺麗でかわいいって罪だ!

ダメだ!ダメだ!ビアンカさんが自分の意志で私を選んでくれるならともかく、上司(?)特権を使って惚れてもらうなんてダメだ!

あ――そもそも私は犬だった。


「確かビアンカさんはお美しいですね。我が一族にもこれほどの美人は滅多におりません」


さすがぷらねさん。照れることなくあっさり褒めるね。自分の出身地にも、美しい人はいるよって主張することも忘れてないけど。は、いるよと同意だからね。


さて仕切り直そう。

頑張れ、私!総務の仕事に会議の進行司会も含まれていた。立て直す、仕切り直すのは、得意だ。


「罪を許されたのは良いですが、ふたりはるぅ・がるぅ族ではなくなったんですよね?良かったですか?」


「はい。茶太郎様の眷属として頂くことができたのです。我々の先祖も喜んでいる事でしょう。本当に偶然ですが、お会いできて良かったです」


うっとりした視線はやめて欲しいよ。ビアンカさん。


はぁ、まさかこの年になってこんな想いをするとは――。異世界転生して良かったなぁって思ってしまうじゃないか。

でも、ビアンカさんにはロボと言う選択肢もあるし、なんならぷらねさんと結ばれたって良いんだ。選択肢はたくさんあるんだ。見守ろう。私もそこにちょこっと入れてね?


「さて、仲間パーティーもできたことです、今後のことを話しあいましょう」


プラネさんの言葉に、みんなは頷いた。

パーティー?あれかな?決起会でもするのかな?


「前衛はお任せください。私は剣聖ソードマスターです」


ビアンカさんが一歩前に出る。

そーどますたー?ソードは剣だよね?それのマスター?剣を極めた人?かな?


「俺は闘士ウォーリアです。盾役タンクも可です!」

元気よくロボが声を上げる

うぉ?なんだろう。たんくは、タンクローリー?じゃないよね?あれ?これ2回目?


「私は光のエルフリョースアールブです。全ての魔法を使えます。そして弓を得意とします」


弓?弓持ってないよね?ぷらねさん。


「紗枝はねぇ、聖女だよ。あとね、茶太郎の調教師ハンドラーだよ」


「さえちゃん、調教師ハンドラーとは?教会では聖女としか認定されなかったはずですが?」


「あのね。?&%!様から言われたの。茶太郎は異世界苦手だから、手伝ってあげてって」


「?&%!様の!?」


皆は驚くけど、私はおいてけぼりだな。

?&%!様?さん?それって誰?

そして皆、何を話し合っているの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る