第16話 ふりがな多くて分からない(6)

天高く伸びた木のせいで、紗枝ちゃんが起きるかと思ったが大丈夫だった。

私が張った『ばりあ』は防音性も高いようだ。

ほっとため息を漏らすと、怖い視線を送るプラネさんと目が合った。


「チャタロー様、やむくもにこれだけ大きな神力を行使するのは止めて頂きたいです!」


「ええ⁉これって魔法じゃないんですか⁉」

「違います!」


怒ったプラネさんが、なんかブツブツと唱え始めた。

ブツブツブツブツ…………ブツブツ……長いな。そんなに私のやったことに文句を言いたいのだろうか。


だがプラネさんは私に文句を言っているのではないようだ。なぜならプラネさんがブツブツと唱えると同時に足元に丸い模様が広がっていく。


ぐるんぐるんと回りながら広がっている模様は、金色に光ってきれいだ。そして山根君に借りた漫画と同じように複雑で、何を書いているか分からない。


私の小学生低学年でも読めそうな魔法陣、『みずのまほうだよ』とは大きな違いだ。かっこよくて羨ましい。


プラネさんが唱え始めて30秒ほど経過しただろうか。

魔法が完成したらしく、プラネさんの体を金色の光が包む。なんだか綺麗だ。イケメンは得だな。

光に包まれたプラネさんの足元の植物――シダ植物の類かな?それを触ると植物がニョキニョキと伸びだした。


「おお、すごいですね」

とりあえず褒めてみた。

内心、ニョキニョキ伸びていく植物は気持ち悪いと思ったけれど。

やはり植物も人間も、ゆっくりと成長していくのが良いよね。


「一気に木を成長させたチャタロー様に言われると嫌味の様ですね」

「………あっ、そんなつもりはなかったんです」


ごめんなさいと謝っておこう。

そうだった。私が木を成長させたんだった。お陰でこの森一番の高い木になってしまった。


プラネさんはため息をついた。私に呆れたのだろうか。

私のこういうところが無意識に人を傷つけると、昔付き合っていた彼女に言われた。


「ですがこれでお分かりになったでしょう?私が使用したのは魔法。呪文を唱えることで自分の中にある魔力で、外気に溶けている魔力を取り込み魔法を発動させるのです。私はエルフで人より多くの魔力を持ちますし、魔法も多く使えます。それでもこの程度です。対するチャタロー様が使ったのは神力。言葉と思いだけで発動し、あらゆるもの可能にします。その可能性は無限大です。」


「なるほど……」

確かに私は《水の萌》と唱えた。水で木を成長させることができないかと想像しながら。

まぁ、こんなに立派に成長することは全く望んでいなかったけれど!


だけど『言葉と思い』で魔法が発動することはすんなりと頭の中に入って来た。最適な温度のカルピスしかり、ふかふかのお布団セットしかり、子供を守るバリアしかり。


つまり魔法の呪文はいらないらしい?

あれでも、攻撃するときは想像だけでは無理だった。私の中に残っている大河原敏行、52歳の常識がそうさせるのだろうか。とは言えど、今更常識は変えられない。なぜならおじさんは頭が固いからだ!

でも待てよ。茶太郎の私は1歳だ。元の世界にいるときは犬であることをそれなりに受け止めていた。だがあの時はこれほど思考が働いていなかったし……。

うん、考えるのは止そう!一歩前進したと思っていたほうが幸せだ。


「神力について分かりました。つまり私がぐれーとまうんてんを見つけたいと思えば、見つけることが可能なんでしょうか?」


「ええ、ですがそのためにはチャタロー様が、【世界の中心にある偉大な山グレートマウンテン】を理解することが必要です。今のようにと言っているとだめです。正確に想像できていないことになります」


「……ぐれーとまうんてん……」

だって分からないから仕方ない。

そもそもぐれーとまうんてんってなんだ?great mountainであってる?でもそういう意味ではないのだろう。


「どうすれば、理解できるのでしょうか?」

「そうですね。旅をし、この世界の人々の意見に耳を傾けることでしょう。私は150歳足らずの若造なので知識が浅いですが、世界は広いです。多くの知識を持つものも多いでしょう」


「…………はぁ」

150歳で若造なら私はどうなるのだろうか。

大河原敏行52歳とチャタロー1歳を合わせても53年しか生きていないことになる。

だが、色々な人に話を聞いて理解することは分かった。


「私は犬ですが、問題ないでしょうか?この姿でも人々は私に話をしてくれますか?」


そうそれが心配だ。だって犬が話しかけてくるんだよ?怖くない?ここは異世界だから大丈夫かも知れないけど!

それに他にも心配ごとがある。


「あとは紗枝ちゃんです。私に巻き込まれてしまった可哀そうな子供を連れて旅なんて、想像もできません。紗枝ちゃんには両親の愛情が必要なのに……」


言いながら怒りがこみあげてきた。山根君似の神様に会ったら、ひと噛み追加して3噛みしてやろう。


「確かに今のあなたの姿で話しかけられると人は困惑するでしょう。私ですら話しかけるのに躊躇しましたから」


やはりそうなんだ。異世界に来ても犬は犬。かわいいポメラニアンでしかないらしい。しかも話す犬なんて、不気味すぎる。


「もしよろしければこれも何かの縁です。私も旅の仲間に加えて頂けませんか?一緒にお探しします」


「助かります!ぜひ!」

「次にサエちゃんですが、チャタロー様の仰っる通り子供を連れても旅は厳しいでしょう。託児所が自由都市ツィリルはあったはずなので、まずはそこで落ち着きましょう」


「素晴らしいアイデアですね。紗枝ちゃんは託児所に預けて、私たちでぐれーとまうんてんを探すんですね?」


「その通りです」


やった!これでひと安心だ。ああ、最初に会った人(エルフ?)がプラネさんで良かった。


「では行きましょう。自由都市ツィリルへ!」


そう言ってプラネさんが再びブツブツ言いだした。そして足元に広がった魔法陣のお陰で私は二度目の、トイレに流されるう〇この体験をした。

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