第15話 ふりがな多くて分からない(5)

「えっと、ぷらねさんは、あるふふぇるむ?を探していて、あるふふぇるむ?はぷらねさんの故郷で、魔王によって封印されている。国って封印できるんですか?」


「チャタロー様には馴染みがないのでしょうが、妖精国アルフヘイムは空中都市でした。空に浮いている都市なので魔王から見れば封印はたやすいのでしょう」


空に浮いていれば封印できるとは理解できないが、それがこの世界の常識なのだろう。

封印が封じることとだというのは知っている。だけど封じるって何だろう。買ったものをビニール袋にいれて、キュッと結んで中身が出ないようにすることなのだろうか。

たぶん、そんな感じかな?

きっとそうだ。だから空に浮いていた都市を、魔王が袋に閉じ込めてキュッと結んで、そして持ち去った……感じ?そうイメージしておこう。

本当におじさんに異世界生活は厳しいな。


「私が大神様になれば、この子達も戻せて、ぷらねさんの故郷も元に戻せるんですね」


「その通りです。フェンリル様ももう限界です。眠らせてさしあげないと……」


「そうですね。もうお年ですし、引退の時期ですね」


大神様という仕事に定年があるかは分からないが、千年も魔王さんと戦っているとは気の毒だ。私だって戦いたくないのが本心だが、紗枝ちゃんのため頑張って引継ぎをしよう。


それに、もしかしたら、ひょっとして、万万が一の可能性で魔王さんと戦わなくて良いかも知れない、ような気がする。

希望は捨てないでおこう。山根君似のおっちょこちょいの神様がくれた人生(?)だと考えると、希望は限りなく薄いが、それでも前向きに生きることが必要だ。


「分かりました。それでぐれーとまうんてんはどこにあるんですか?」

「存じません」

ぷらねさんは笑顔だ。


「――――――ん?」

「私も分かりません」

やっぱり笑顔だ。こんなにさわやかに分からないと言い切る人を始めて……ではないな。

山根君も良く『知らないっす~』って言ってたし。まぁ、山根君は続けて『世代っすかね~』とも言っていたけれど。


「えっとじゃあ、どうやってぐれーとまうんてんに行けば……」

「チャタロー様には神力がありますよね?神力を自在に操れるようになれば偉大な山グレートマウンテンへの道が開けるはずです」


「さっきから仰っているしんりょくって具体的に何ですか?」

「神力とはその名の通り神の力です。私たちエルフや人間が持つ魔力とは一線を画すものです」


どうしよう……説明が説明になってない。

そもそもまりょくって具体的には何だろう。山根君が貸してくれた漫画の漢字はだった。

魔法を使うために必要な力だと思った。

私が夢中で唱えたもの。あれとは違うのかな?


「私が魔物を倒すために使ったものが魔力ですよね?」


プラネさんが考え込んでいる。私は何か変なことを言ったのだろうか。たしかに魔法陣(?)は日本語でヘンテコだったけど。


「私は魔物を神力で倒すものの気配を探してここに来ました。チャタロー様は魔法を使っていないと思いますよ?」

「え――でも……」

「試しに使ってください」


プラネさんは木を指さした。あそこに攻撃しろと言う意味だろう。

どうしよう。恥ずかしい。でも多分、言わなきゃいけないのだろう。

言うなら被害が少ないものだ。火は火事になる。風は……ここは森だから一本の木を切り倒すと他の木まで巻き添えを食ってしまう。水ならどうだろう。木に栄養を上げる意味でも良いだろう。あとは漢字一文字。

刃は切っちゃうし、玉はなぎ倒しちゃうし、ああ、こんなことならもっと英語をちゃんと勉強しておくべきだった。まさかこんなところで私に英語力が必要になるとは思わなかった。いや、誰だって思わないだろうけど。

植物に水を上げるときに使うのは如雨露じょうろ。それは一文字じゃない。そもそも英語が分からない。サーっと水を上げるんだからシャワー?シャワーを日本語で言うと何だろう。今度はそっちが分からない。なんで日本人は日本語と英語が混ざっているんだ!いや、英語ですらないものもいっぱいだ。ゲレンデはドイツ語だと、ドイツ人に突っ込まれた。


いやいや、そうじゃない。どうして年を取ると考えがわき道に逸れてしまうのか。昨日の夕飯は覚えていないのに、昔のことは良く思い出す。


そうだ!山根君との思い出を探ろう。

山根君は良く略して喋っていた。あまりにも略すから途中から意味を聞くのを止めたくらいだ!って意味がない!意味が分からなければ使えないだろう!!

いや、待てよ!山根君が良く言っていた一文字があるじゃないか!それは『萌』!

山根君に意味を聞いても、ちっともまったく全然分からなかったが、漢字を教えてもらってなんとなく意味を察した。萌とは、芽吹くこと。草木が芽を出すことだと辞典に載っていた。どうして山根君が『萌』を連発するかは分からなかったが、つまりそういう事だ!待って!英語が分からない!ああ、どうして私は同じ失敗を頭で繰り返すのか!


「ああ、『水の萌――』」

ポツリと呟くと、魔法陣が浮かび上がった。円に沿って『みずのまほうだよ』と日本語で書かれてある。そしてその中心には萌の一文字。――――――どうやら英語じゃなくても良かったらしい。山根君のうそつき。


優しい水が注がれた木は、ずどんと大きな音を立てて、雲をも突き刺さんとする勢いで空へと伸びた。


「わぁ、異世界の木の成長ってすご~い」と思わず呟いた私に、プラネさんの冷たい視線が下りたのは気のせいではないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る