6. 概要2(1日が始まる頃)

「朝か」


 今日も1日が始まる。左手首のデバイスからも卵型の装置の中にあるモニターからも「オハヨウゴザイマス」の文字が分かりやすく表示されていた。


「起きるか」


 以前の話からしばらくして、精液採取の役目が終わったという通知が来た。そのため、健康チェックだけで採取をすることになるので、ほぼ毎日から週1回程度にまで頻度が下がるようになっていた。


 少しだけ気になったので、この件をもう少し詳しくAIに訊ねてみると、ある年齢を超えると精子の質の低下が見られるようになるから、年齢で一律足切りしてしまうとのことだった。


 もちろん、私の精子そのものはまだ冷凍保管されている分もあるため、すぐに私の遺伝子がなくなってしまうわけではない。


「なんだかな……」


 ただ、これは少し気掛かりだった。


 生産性の中には次代への子どものためにできることも含まれている。つまり、私が今まで精液を提供することで認められていた生産性の一部は、この役目を終わることで寄与できないと判断されるわけだ。


 そうなると亀の甲より年の劫というべきか、仕事面で生産性を上げなければいけないという推測に至った。実際、仕事は徐々に難しいものに挑戦するようになっていると思う。


 もちろん、業務量はAIに完全に管理されているため、疲れが残ってしまうようなことはないが、いつまで生産性を維持できるかが今後の悩みの種になりそうだ。


「ふぅ……」


 私はあれほど嫌がっていたものが、なくなってしまう段階になってしまってからなんだか急に不安になる、という矛盾に満ちた自分の気持ちに自嘲気味に思いを馳せる。


 もう若くないのか。これまで以上に生活スコアに気を付けないとな。そう言えば、先日の生活スコアの結果は良かったが、許容最低点が上がっていたな。


 おそらく、ある年齢以降、徐々に許容最低点が上がっていくのだと推測できる。だが、許容最低点未満になるとどうなるのか、私はまだ知らないし、聞いたこともなかった。


「今度、AIに聞いてみるか」


 分からないことはAIに聞こうと思いつつ、今は目の前の生活スコアを気に掛けて、仕事前の支度に移る。


 起きた後にトイレと水分補給を行い、ストレッチをした後に時間があるので、卵型の装置を運動モードへと変えた。


「やるか」


 まだ仕事まで時間があるから、お気に入りのアクションゲームをいつもより長めにしてみようか。


 生産性を上げるためにも体力は必要だろう。今のところ、健康チェック上は平均よりも運動能力や体力も上だが、のほほんとしているわけにもいかない。いつ生産性が低いという評価を受けてしまうか。いつ生活スコアが低いと言われてしまうか。


 体力低下はどうにか避けようと、朝食の時間などを詰めに詰めて、仕事までの間、運動に勤しむのだった。

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