2. 子どもの頃
私はあまり昔を思い出すことはない。
思い出したところで良いことも悪いこともほとんどない。代わり映えのないと言ってしまうと聞こえが悪くなってしまうが、無事平穏に何事も起こらない日々という言葉にもなるし、心を穏やかなままでいられて、落ち着いて瞑想ができることは何物にも代えがたい貴重なことだと思う。
でも、振り返ることも大事だろうから、たまには思い出す。過去を振り返って、今や未来を見つめ直すのはとてもいいことだろう。
「ふぅ……」
物心がついた頃には独りだった。今よりもAIが話しかけてきていた覚えがある。ある時からか、勉強というものが始まり、その頃からかあれもダメ、これもダメ、といろいろ言われるようになった。今思えば、幼児から子どもへの成長とともに、躾ができると判断された証拠なのだろう。
学校というものが昔はあったらしい。同じ年頃の人間が地域や能力値によってある程度の集団を形成する。社会へ出るための対人関係を学ぶところ、という話だが、AIによって対人関係が用を為さなくなった現代では無意味なので、当然そのような制度が廃止になっている。
「ふふっ……」
ついつい、人間と言うが、今、人と人との間はAIがとりなしているから、人でしかない気がするな、なんてちょっと面白いことを思いついてしまった。
「対人関係……か……」
AIは母親であり、父親でもある……らしい。母親も父親も昔あった対人関係の1つで、父親、母親、子どもという役割を持って、家族という小さな集団を作って生活を営むもの、らしい。
昔、AIに聞いたところ、今は人間どうしでそういうものはない。全員が独り暮らしだからだ。当たり前だ。会うこともないのだから、そんな役割などあっても意味がない。
「こんなこともあったな……」
幼い時分には反発することも時折あったが、結局、食事欲しさに言うことを聞いていた。どんなにAIに悪態をつこうが、部屋の中で暴れようが、きちんと反省して、言うことを聞いてさえいれば、何も問題ないのだから、最終的には言うことを聞くようになっていたと思う。
いや、反抗期に数日間反発した結果、餓死寸前になって、部屋の至る所からマジックハンドみたいなものが出てきて、それから拘束されて、さらに数日間点滴生活を送ったこともあったな。これはこれで、中々のやんちゃをしたような気もするが、それ以降は大人しくしていた気もする。
なんにしても若かったな、と思う。今はもう大人になって長く、いい歳だ。自分から心を乱す必要なんてなく、心を穏やかにするために、日々の生活スコアを上げて、生産性を上げていこうとだけしか思わなくなった。
「おっと、そうだ。今日はスコアを100点に近づけておかないとな」
そろそろ、食事の時間だ。子どもの頃の振り返りはこれくらいでいいだろう。少しでも自分を振り返ってみることはいいことだな。
生活スコアを高く維持しなきゃなって思えたからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます