【完結】遠い未来は独り暮らし

茉莉多 真遊人

1. 概要1(1日の終わり頃)

「お疲れさまでした」


 私はそう言って、モニターに「オツカレサマデシタ」と表示されていることを確認してから、自分がすっぽりと嵌っているバカでかい卵型の装置からゆっくりと出た。


 仕事はすべてAIを経由して、別の人と仕事をしているらしい。らしいというのは、生まれてこのかた、他の人を見たことがないからだ。


 昔は対人関係というものがあって、それが悩みの種だったようだが、先ほど言ったようにすべてがAI経由になってからというものの、業務量も能力値によって個別最適化された上で管理され、暴言や愚痴を聞くこともなくなった……らしい。


 さらに言うと、仮に自分が暴言だと周りから思われるかもしれないことを言っても、AIがうまく相手に伝わるように言い直してくれるようだから思いきり言える。


 ストレスとやらは格段に減ったらしい。らしいというのは、まあ、体験したことがないからAIの受け売りでしかない。


「腹が減ったな」


 次は食事でもしようかと思って、壁際にある食卓の椅子に座ると壁から温められた食事が出てくる。


 今日の食事は朝から野菜成分が多めのような気がした。まあ、食事はどの食材を使っていようと全て味付けが同じ私好みで、それがペースト状だったり、ゼリー状だったり、スープだったり、固形物だったり、と形状が変わるだけの話なので、実際のところは栄養の数字を見て判断しているだけだ。


 昔は自分で食材を加工しなければいけなかったらしい。ケガをしたらどうなるのか、栄養に偏りが出て病気になったらどうするのか、実に恐ろしい話だ。


 食事を終えてしばらく瞑想にも似た時間を過ごしていたら、左手首に巻いている装置から「ウンドウシテクダサイ」と通知が来てしまう。


「あぁ……そういや、今朝は寝坊して運動していなかったな」


 私は卵型の装置を仕事モードから運動モードへと切り替える。運動する場合はモニターよりもヘッドセットの方が適しているため、映像の出力先も切り替えた。身体全体が若干浮くように手足を卵型の装置の中にある専用コントローラーに固定する。


「どれにしようかな」


 最近の流行りはアクションゲームで、パンチやキック、つまり自分の手足をこの卵型の装置の中で動かして運動する。歩くや走るも脚を動かすので、短時間で良い運動になる。規定値まで動けば、後は続けるなり止めるなり自由だ。


 私は運動の気分じゃないなと思って、規定値を超えたら早々にやめた。


「だいぶ汗をかいたな」


 トイレで用を足した後、併設されているシャワー室で汗を流す。


 食事もそうだが、運動、排せつや入浴などはどうしてもリアルのことだから、自分でしなければいけない。面倒な話だ。すべて、バーチャルでどうにかならないものだろうか。


「終わった、終わった」


 すべてを終えた私は再び瞑想の時間を取る。


 私はこの時間が一番好きだ。強制されているわけではないし、何かとやり取りをしなければいけないこともない。本当の意味で独りになれる。


 しばらくすると、またもや左手首の装置から「シュウシンジカンデス」と通知が来る。そうすれば、今日も1日が終わりだ。


 生活スコアを見ると100点満点中81点だった。おそらく、寝坊と食後に激しい運動したためだろう。明日は決められた時間に起きて、運動をしないとな。


「じゃあ、寝るか」


 明日の起床時間にアラームが設定されていることを確認してから、私は卵型の装置を就寝モードにして、ゆっくりと眠りに落ちた。

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