神様はロマンチックがお望み

霜月 識

第1話 その髪を上げたらそこは、神様がいました

 コツコツコツコツ

 ローファーの耳心地が良い音が聞こえてくる。

 今は六月の中旬。今日は連日の暑さが緩和されて、過ごしやすい天候になっている。

 「気持ちのいい朝だなー…。」

 そう言って、伸びをしているのは私、剱崎一けんざきいつだ。名字、名前、どっちを取っても名前から受け取る性別は男性だろう。しかし、私はれっきとした女性だ。

 「おはよう一。」

 「おはようナオ。」

 私の肩に手を置き、挨拶してきたのは、私の友達、神宮ナオ。私より少し小柄で、栗色の髪を後ろで一纏めにして結っている。

 「今日は気持ちがいいね。太陽があったかい。」

 「そうだね。…ねぇ、うちのクラスって体育祭実行委員会決まったっけ?」

 「いや、まだだったと思うよ?…え?もしかして今日決めるの?」

 私たちの学校、私立保谷高校の体育祭はとても派手なことで有名だ。が、派手ということは使うものが多いということで、殆どが力仕事となってくる。故に、誰もやりたがらない。

 「多分ね。体育祭って夏休み入る前ってお姉ちゃん言ってたから。今から決めても間に合うから今日やると思う。」

 「うへー…、やりたくないな…。」

 「同感。多分…押し付け合いになるよ。」

 そんなことを喋っていると、いつの間にか校門が目の前にあった。その門をくぐると、特に何も起きない。歩いていた場所が歩道から学校の敷地内に変わっただけだ。

 「実行委員会、やりたくないなぁ。」

 

 なんだか今、盛大なフラグが立った気がする。



 「じゃあ、体育祭実行委員会は、剱崎と向日に決定。それでいいかー?」

 先生の声の後、すぐに元気よく

 「いいでーす!」

 と聞こえてきた。

 くっそぉ…、私のくじ運がこんなにも悪かったなんてっ…。

 くじの紙を握りしめ、私は机に突っ伏した。

 顔を上げると私は、斜め前に座っている、向日という人を見つめた。それは好意、というわけではなく

 (私と一緒で、くじ運悪かったんだね。)

 ただの哀れみの目だった。

 「実行委員に選ばれた二人―。悪いが早速今日の放課後、会議室で話し合いがあるから行ってくれ。いいか?」

 嫌だと言えるわけないだろう…。

 「はーい……。」



 放課後

 私は、向日くんと一緒に会議室に向かっている。

 とても気まずい。

 彼についてまだ話していなかった。彼は向日葵むこうびあおい。長い前髪で目を覆っており、眼鏡をかけている。だが、レンズには度が入っていないような気がする。身長は百七十は超えていると思う。なぜなら、百六十九の私より大きいから。

 まぁ、見た目は俗にいう陰キャだ。中はどんなかは知らない。

 「あ、あのぉ~…向日、くんは、なんで眼鏡かけてるの?」

 すっごいたどたどしい言い方!絶対怪しまれるって!

 「なんでって、目が悪いから…。」

 答えてくれた!

 答えてくれた彼の声は綺麗な声をしていた。低い声だがとても低いというわけではなく、よく通る声をしていた。

 「じゃあなんでその眼鏡、度が入ってないの?」

 そう問うと、僅かだが体がビクッとなった。

 「……いつから気づいてたの?」

 「い、いや!さっき眼鏡ちらっと見たときに私でも普通に見れたから!」

 そう言うと、彼はホッとしたように息を吐いた。

 「ねぇ、向日くんが良かったらなんだけどさ。眼鏡と髪、上げてくれない?」

 「い、嫌だ。」

 どもりながらも即答された。これにはちょっと心が痛む。

 「お願い!見てみたいの!一瞬だけでいいから!」 

 「それ絶対一瞬じゃないやつじゃん!」

 初めて向日くんの大きな声を聞いた。

 「いーじゃん。ホントにお願い!」

 「絶対に嫌だ!」

 私がぐいぐい行き過ぎたかもしれない。向日くんの足に躓いて、向日くんのほうに倒れてしまった。

 ドサッ

 「い、たく、ない?」

 それもそのはず。私の下には向日くんがいたから。

 「わぁっ、ごめん!すぐにどくか、ら、…。」

 私は、彼の顔に目を奪われた。なぜなら彼は

 とてもイケメンだったから。

 

 「だから嫌だったのに…。」

 ため息交じりにそう呟いていた。

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