伊南の突発短編小説集

伊南

真夏日(彼方よりきたりて現パロ)

 じりじりと地面を照りつける太陽。

 ニュースで定期的に「今年一番の真夏日です。熱中症対策を!」の注意喚起が流れるような気温の中、シリウスはうんざりした様子で道を歩いていた。

「お前はホント、暑さに弱いよな」

「この状況で暑さに強い弱いは関係ないでしょう」

 隣を歩くリゲルが苦笑いを浮かべる一方、シリウスは憎々しげに照りつける太陽を見上げる。

「……年々真夏日が増えていくのがホント……そんなやる気出さないで、もうちょっと手を抜いてくれればいいのに……」

「自然に対して無茶を言う……ほら、もう少しで着くから頑張れ」

 ぶつぶつとぼやいているシリウスに苦笑しながらリゲルは道の先にある店に視線を送った。


 暑いのが苦手で外に出たがらないシリウスを連れ出すためにリゲルが持っていった話は「新しく出来たアイスクリーム屋に行こう」だった。チェーン店だが市内に新しく出店したお店でアイスクリームの種類も豊富、トッピングも選べて何回でも楽しめる、というのが売りのお店だ。

 ……シリウスは食べるのが好きで見た目によらず大食漢である。リゲルから話を聞き、暑さのダメージとアイスを天秤にかけて最終的にアイスを選んだのだが──そこまでの道のりが中々にキツい。

 そんな試練を乗り越えて目的の場所にたどり着き。自動ドアをくぐった瞬間に感じる、ひんやりとしたエアコンの空気にシリウスはホッと息を吐いた。リゲルも同じように息をついた後、オープンしたばかりで混み合った店内をぐるりと見回して──それから小さく「あ」と呟きをもらす。

「?」

 リゲルの様子にシリウスは首を傾げて……その視線の先を見て同じように「あ」と声を上げた。

 そこにはテーブル席に腰掛けた少女二人がそれぞれアイスを食べていたのだが……見知った顔の二人だった事から、シリウス達は注文より先にそちらへと向かう。

 

「こんにちは。奇遇ですね」

「え?」

 シリウスからの不意の挨拶に少女二人は顔を上げて。それから「あっ」というような表情で彼らを見た。

「よう、アリアにエルナト。お前達も来てたんだな」

「びっくりしたー……リゲル君達も来てたのね」

 アリアと呼ばれた黒髪の少女は食べる手を止めて微笑みを返す。……その一方、エルナトは少し微妙な表情を浮かべてシリウスを見ていた。

「何を食べてるんです?」

 二人の前にあるガラス容器にはいくつかの丸いアイスが乗せられている。それを見ながら質問したシリウスに対して、アリアが微笑んだまま口を開いた。

「私はバニラとチョコミント。エルナトはレモンシャーベットと抹茶アイス」

「へぇ、美味しそうですねぇ」

「他にもたくさんあるしどれも美味しそうだったから好きなの食べたら良いと思うよ」

「それは楽しみです」

 小さく笑ってそう言った後、シリウスは黙っているエルナトへ視線を落とす。

「じゃ、僕らは行きますね。……また明日、学校で」

「え? ……あ、うん。また明日」

 青年のあっさりとした態度にエルナトは一瞬面食らったように目を瞬かせる。それに微笑みを返してからシリウスは「カウンターに行きましょう」とリゲルに声をかけてその場を離れた。


「……今日は随分とあっさり引いたな」

 ガラスケースの中にあるアイスを見ながら、少し意外そうにリゲルが呟きをもらす。

 ……性格に若干難があるシリウスは一部において問題児で、クラスメイトで学級委員でもあるエルナトと絡む事が多い。端から見ると委員長が問題児に絡まれている構図なのだが、シリウスの人となりを知っている者からすれば彼がエルナトを気に入っているのは一目瞭然だった。

 リゲルの言葉に含まれている意味を理解した上でシリウスは少しだけ笑う。

「流石に休みの日まで委員長として気を張らせたくないので。友達と遊びに来てるんだし、邪魔するのも悪いですからね」

「……その気遣いを学校でもやればもう少し仲良くなれるんじゃないか?」

 ガラスケースに視線を向けたままのシリウスへリゲルが苦笑いを浮かべれば、その相手はフッと笑みをこぼす。

「絡みたい相手に絡める理由があるのに、自分から手放すのって馬鹿みたいじゃないです?」

「……相変わらず拗らせた考え方だなぁ……」

「そういう性分なので」

 さらりと返された言葉にリゲルはやれやれ、というように笑い、自身もガラスケースに視線を戻した。


 ……その後。


「……お前、腹壊さないか……?」

「え? これくらいで壊れたりしませんけど」

 店を出る前に声をかけにきたエルナトが大量に並べられたアイスクリームの山に顔を引きつらせ、シリウスが不思議そうに首を傾げ、その様子をリゲルとアリアが苦笑い混じりに眺める光景があった。

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