国造神話

 太古の昔、人間の不徳により、世界を動かす五行の均衡は崩れてしまった。

 大地は音を立てて裂け、不二の山は灼熱の炎を噴き出し、空は幾日も暗雲に包まれた。日夜、雷がたえまなく轟き、豪雨がふりそそぎ、やがて割れた大地は水の底に沈んだ。

 吹きすさぶ風雨に、人間と動物をのせた船が大きく翻弄されていたときのことだった。

 闇の中から大きな火の玉が現れた。それは船に近づくにつれ、一羽の炎をまとった大きな鳥へと変わった。

 炎の鳥が、その大きな翼で、荒れ狂う水面を薙ぎはらえば、水はあっという間に干上がり、ふたたび大地が現れた。空を上へ下へ身をひるがえして舞えば、暗雲は瞬く間に消え去り、人々は太陽の顔を久しぶりに拝んだ。怒れる不二の頂に、凍てつく息をひとふき吹きかければ、あふれ出る溶岩は冷たく固まった。

 

 人々と動物たちは、何年ぶりかに船から降り、地上に立つことができた。

 炎の鳥は、彼らの前にすっと舞い降りた。すると、赤い衣をまとった娘の姿になった。

 娘は、ひれ伏す人々に緋美古ひみこと名乗った。彼女は、すべてを創った雄鶏雷神おんどりらいしんの娘だった。

 緋美古は、のちに人間の若者と結ばれ、二人の間には子が三人生まれた。

 一人は地上に残り、一人は神々のすまう世界へのぼり、一人は妖魔の国へ渡った。

 やがて夫が死ぬと、緋美古は炎へと姿を変え、我が子が地上の王になるよう導き、その繁栄を守ることにした。


――乙女ゲーム『ドキッ!ときめきジャパネスク――ロマンスの炎は、恋の都で燃えあがる』冒頭


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