オリンピックの感想と考察

木沢 真流「漂流病棟」GANMA!で連載

卓球の女子団体 決勝

 そもそも卓球の競技人口って知っていましたか?

 日本は35万人、ドイツは70万人、中国は3000万人だとか(あくまで登録者数なので、解離はあるかもしれません)

 その最強中国のトップに出てきた人たちなので、めちゃくちゃ強いです。

 そんな相手に、日本女子は見事な戦いぶりを見せてくれました。


 相手中国の日本対策っぷりは凄まじく、その昔、福原愛選手を倒すために、服装やスタイルを似せた仮想福原愛を敢えて作って、戦いに臨んだという話も聞いたことがあります。


 今回の第一ダブルス、日本には奇策がありました。

 それは今まで見せたことのないダブルスで挑むということ。

 つまり、中国としてはおそらく対策を全くしていない相手ということです。確か解説の方は早田ひな選手と張本美和選手は、世界大会で今回が初めて組む、と言っていた気がします(確認できていません)。

 初めて組むペアがオリンピックの決勝戦。そんな緊張感を吹き飛ばすように、快進撃を見せてくれました。


 中国にとって準備万端な戦いは余裕を生みますが、それが崩された時、一気に自信を失う。まさに相手の虚をつく作戦だったわけです。

 最強中国ペアに、互角、というよりおそらく実力では上回る戦いを見せてくれました。


 日本は9対5であと2点取れば勝ち、というところを逆転されて、残念ながら負けてしまいました。

 ただこの負け方は通常あるような「勝ちが見えたからこそ守りに入ったが故に負けた」というものではなく、二人とも最後まで攻めに行って、それでの負けであったように思えます。


 とはいえ、やはり私の中で一つきらりと光った忘れられないシーンがありました。それは確か9対6になったときの、王曼※イク選手の一発です。

 鋭い確かショットが決まり、王曼※イク選手が「うぇーーーーい!」と大きなガッツポーズをしたシーンです。あそこで一気に流れが変わる瞬間を感じました。

 王曼※イク選手は私はあの決勝でしか見ていませんが、おそらくメンタルとして非常にアップダウンの激しい選手と予想されます。つまり、ノってくるとどんどんいけるが、落ちるとどんどん落ちる。波が激しいタイプでしょう。戦いの中でもそれは如実に現れていました。


 一方で、シングルの孫穎莎は真逆ですよね、ずっとポーカーフェイスでニヤリともしなければ、しまった、という表情もぴくりともしない、淡々とこなすタイプでしょう。


 王曼※イク選手のような相手で大事なことは乗らせないこと、そして心理的な攻撃が有効だということです。

 心理的な攻撃としてはどんなものがあるでしょうか。


 たとえば、

 

・自分の持ち味の攻撃が完全に打ち返された。

・頼みの綱の攻撃が交わされた。

・何かいつもと違う、うまくいっていない


 こういった何となく現れる不安が心理的な攻撃になります。

 一方で、逆に相手を打ち負かした時、アドレナリンが出るのか、一気にノってくるわけです。その流れを自らに引き寄せる奇策を打ってきたのです。

 

 9対6になったとき、ラリーポイントで普通にやっていれば、負けることはない、つまり日本が勝つんです。では、そんな時に負けている方はどうすればいいか。これは実は数学的にとある戦略が有効になります。


<捨て身の攻撃>

 通常であればみなさんは次のうち、どっちの攻撃を選ぶでしょうか。


・70%の確率で、相手より、若干上回るプレイスタイル

・5%の確率で、相手よりすごく上回るプレイスタイル


 普通であれば上を選ぶでしょう。

 しかし、9対5で負けている場合、普通にやっていたら絶対負けなのです。なので、賭けに出る必要があったわけです。

 そこで、おそらく王曼※イク選手は相手チームである日本の攻撃のうち、ある種の攻撃についてカウンターをしかけようと張っていたと思われます。もちろん張りが外れれば無惨な結果が待っていますが。

 外れる可能性のほうが高いですが、もし当たった場合はどうなるでしょうか。

 相手の持ち玉を完全にカウンターで跳ね返し、王曼※イク選手が「いえーーーーい!」とさらに自分を鼓舞し、相手に対して心理的なダメージを与えつつ自分を乗らせるわけです。

 

 リスキーな戦法ではありますが、何もしなくても負けるのであれば、やるべきなのです。そして見事にそれがはまったのです。運命の女神はやはりチャレンジする人に味方をするのでしょうか。


 ではそれに対し日本はどうすればよかったのでしょうか。

 もしこの話を知っていれば、日本チームとしては、大丈夫大丈夫、相手はやぶれかぶれの戦略、ハリボテの元気だ、全然気にすることない、と思えればいつも通りの確率で勝てたかもしれません。


 ただ、できるでしょうかね、自分だったら動揺してしまうと思います。そこはやはり経験の差(自分には経験がないので無理でしょう)なのかもしれない、と思ってしまいます。

 

 その後も、素人の私から見ても、早田・張本ペアは決して守りに徹することなく、攻めていたように見えたので、悪い負け方ではなかったとは思うんですが。


 ただ、やはりあの時の王曼※イク選手の戦略は見事だったと言わざるを得ません。


 卓球日本女子、最後まで感動をありがとう!!

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