財布の中に悪意

misaki19999

財布の中に悪意

 ごくたまに、お札に鉛筆で文字が書かれてるものを受け取ることがある。


 それは数字だったり、旧札の野口英世の顔にいたづら書きがしてあったり、と色々だが、今日、コンビニのATMで三万円を全部千円札でおろしてきた。


 まだ新札を受け取ったことがなかったので、見たかったのだ。私の住む田舎町にはまだあまり流通してないのかもしれない。


 そして新札に期待して紙幣を一枚一枚見ていくと、旧札の表の隅に、「死んでくださーい」と書かれていたものがあった。


 ある人気タレントがXで女芸人さんにリポストしたのと同じ言葉だ。


 この紙幣にこの文字を書いた人は、私に向けてこれを書いた訳では無い。このお札が誰に回ってくるかなんてわからないのだから。


 でも、ちょっと怖くなった。その悪意に。お札にそんな言葉を書く人間の心の闇のようなものに。


 だからあんなリポストを、知ってる人にされた女芸人さんはどれだけの衝撃だったろうと思う。


 だが、このお札をどうしよう。これをどこかの店で使えば、誰かにこの悪意が渡ってしまう。不幸の手紙か、チェーンメールみたいに。


 自分がこの悪意を、心の闇を、世に放つのがとても怖いことだと思った。この悪意は巡り巡って誰かを傷つけ続けるかもしれないからだ。


 私は紙幣の中に新札がなかったので、その落書きされた紙幣を財布に残して、後はコンビニのATMでPayPayに入金した。


 私の財布の中に悪意と心の闇が一枚残った。

 「死んでくださーい」の文字は今も私のそばにいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

財布の中に悪意 misaki19999 @misaki1999

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ