第16話ローレンスside

 やっとここまできた。

 やっと手に入れた。


 もう二度と離さない。離れない。



「おめでとうございます。ご懐妊でいらっしゃいます」


 公爵家の主治医からの言葉にどれほど歓喜したか。


「やった! ソーニャ!」


 ああ、やっとだ。

 これでやっと……。


「はい。ありがとうございます」


「ああ……僕達の子供が……僕達の……」


 涙で妻の顔がぼやけてよく見えない。


「ソーニャ! ありがとう!ありがとう!」


 これほど喜ばしいことは他にはない。

 だってそうだろう?

 僕とソーニャの血を引いた子供が生まれるんだ。

 男でも女でもどっちでも構わない。ソーニャの血が流れている子供なら。


 ああ!早く生まれておいで! 僕達の可愛い赤ちゃん!


 生まれてくる子供は、間違いなくソーニャの枷に……足枷になる。

 愛しいソーニャ。

 君を決して手放さない。絶対に。


 枷は多ければ多い方がいい。


「ああ、早く会いたいよ」


 僕達の赤ちゃん。

 楽しみだな。

 ソーニャの妊娠が発覚してすぐに、両家に子供ができたことを手紙で知らせた。

 両家とも喜びのあまりにお祭り騒ぎになった。

 まあ、僕が一番喜んでいるけどね。



 あの男クルトを排除に動いていた良かったと心から思う。

 あんな男クルトにソーニャは勿体ない。





『あの男に女を宛がえ』


 そう命じた。

 クルト・メイナード公爵子息に色々な女を偶然を装って接近させた。

 直ぐに食いつくとばかり思っていたが三年かけても、全く女を寄せ付けさせなかった。はっきり言って、王女よりも手強かった。

 中々食いつかなくて焦っていたところに、あの男爵令嬢がクルトに近づいた。

 正直、邪魔だったが……。

 まさかのまさかだ。


 女の趣味が悪い。

 寄生虫のような女を選ぶとは。

 可愛いだけが取り柄の、頭の悪そうな女だった。

 あまりの趣味の悪さに、クルトの女の趣味は最悪だという噂が社交界で広まった。当然だな。評判も悪い。婚約者を蔑ろにしていれば、誰だってそう思うだろう。

 だが、そのおかげでクルトが男爵令嬢にのめり込んだ。

 男爵家の娘では公爵家には嫁ぐことはできない。だから、クルトと男爵令嬢は結婚できない。


 笑いが止まらなかった。


 勝手に堕ちていく姿は滑稽としか言いようがなかった。


 そして、やっとだ。やっと……だ!

 あの寄生虫のおかげだ。

 心の中で何度感謝の言葉を捧げたのか分からない。


 お礼に男爵令嬢は生かしてあげよう。


 命は絶対にとらない。

 男爵令嬢がどれだけ借金に塗れようと。

 助けてあげよう。命だけは。


 僕だって鬼じゃない。

 だから、安心していいよ。


 運が良ければ再び愛する男クルトに会えるかもしれないし。



 だから感謝してよね。

 最期の瞬間に愛する男クルトに会わせてあげたこと。


 彼と第二王女の結婚。

 愛する男が幸せになる瞬間を見れたんだ。彼女も本望だったろう。まあ、クルトは彼女の存在を認識できなかったようだけど。


 まあ、そんな些細なことはどうでもいいか。


 僕はソーニャを取り戻せた。

 メイナード公爵は息子のクルトを王配にできた。

 王家は公爵子息を婿に迎えることを喜んでいる。


 文句がある奴は……いないよね?


 これぞまさにハッピー・エンドだね。



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