第12話従者side
深夜の酒場で二人の男が向かい合っている。
幾ら顔が良いからといって男と密会なんてこれっきりにしてほしいと切実に思う。
「お疲れさまでした。これは残りの報酬です。皆さんで分けてください」
「ああ、ありがとう。しかし、本当に良かったのか?」
「何がですか?」
「あの女よ」
「勿論ですとも。彼女はお元気ですか?」
「ああ、元気も元気。今も他の連中とベッドの中さ。……しかし、まあ。こんなに上手くいくなんてな」
「まったくです。皆様のおかげで」
「俺達は報酬分の仕事をしただけだ」
「また、お願いしたい時はよろしくお願いします」
「ああ、あんたは金払いが良いからな。また、何かあったら呼んでくれ」
男はそう言って酒場から出て行った。
彼らが今可愛がっている女の正体を知る者は誰もいない。
例え、男達が女に飽きたとしても、女がまっとうな生活に戻ることはない。戻れないともいうが。
報酬として渡した金は結構な額だ。
「すぐに使い果たすだろうな」
腐っても王族。
没落していようと貴族出身。
男も女も金のかかる連中だ。
あっという間に使い切るに決まっている。
哀れな女だ。
馬鹿な女でもある。
見目の良い男どもからの愛の囁き。欲望に目がくらんで、自分の人生がめちゃくちゃになるなんて想像もしていなかっただろう。
「こわい方だ」
己の主の恐ろしさを再確認し、酒場を後にした。
今頃、主は意中の女性との新婚生活に思いをはせていることだろう。
今まで、散々お預けを食らったのだ。
その反動で毎晩のように励んでいるのは想像に難くない。
温厚な人を怒らせたら恐ろしいというが、主の場合もその例に漏れない。
しかも主は執念深い。
一見そうと分からないが、兎に角、シツコイ。粘着質だ。
『頭空っぽのバカ女のせいで、僕とソーニャの婚約が破談になってしまった!』
主の怒りは凄まじかった。
第一王女に見初められ、王命まで出されて、主は王女と婚約した。
当時、主は幼馴染の令嬢との婚約が内々で決まっていて、後は婚約を発表するだけという状態。
七歳下の令嬢を溺愛する姿をよく見かけた。
幸せの絶頂から奈落の底に落されて主は怒り狂った。
だが相手は王家。
国王から王女との婚姻を命じられた。
絶対に断れない命令だった。
『こんなバカな話があってたまるか!あのバカ女のせいでソーニャを他の男に奪われるなんて!』
主は荒れに荒れた。
愛する令嬢もまた王命によって別の公爵家の子息と婚約していた。
主は令嬢が自分ではなく別の男と寄り添う姿を横で眺めなければいけなかった。
いつも通りのニコニコ笑顔なのに深淵を覗いているような、そんな底冷えする目だった。
『あのバカ女のせいで!僕の人生設計が全て台無しだ!』
本当にお気の毒だと思う。
主には将来を誓った幼馴染の令嬢がいたのに、王女との婚姻を結ばされた。
しかも、その婚姻は王命で破棄できない。
『絶対に許さない』
地獄に住まう鬼だって裸足で逃げ出すような、凄まじい怒りの形相。
『必ずソーニャを取り戻す!』
主は宣言し、行動を開始した。
より慎重に、気取られないように。
まずは王家の信頼を得て、情報を得られる立場から始めた。
憎い王女に優しくし、王女の信頼を得て、王と王妃に気に入られた。
敵を知ることが大事と言わんばかりに、王族の情報を集めていた。
好みにうるさい王女が何を好んでいるのか。
何に興味があるのか。
どんな生活をしているのか。
王は何を考えているのか。
王妃は何を望んでいるのか。
とにかく知り得た情報を片っ端から書き出して、役立つもの、害をなすものを分けた。
いざという時の為に、王家の影まで調べ上げていた時は腰抜かした。
やばいことだ。
王家の影って……。
主は全く気にしていなかったが間違いなく国の機密を知り尽くしている。
他にも色々やっていたが、兎に角、恐ろしい執念だった。
王女に宛がった騎士は揃いも揃って眉目秀麗。主が調べた王女の好みに一致した。
徹底的に調べたのだ。王女の好みの男性を。
貴族でも決して跡取りになれない男達。
さして優秀でもないから、王女に宛がっても問題のない男達。
主が用意した騎士はそんな男達だった。
『あのバカ女には丁度いい』
主は吐き捨てるように言っていたが、本当にそうだと心から思う。
騎士達は見事に役目を果たした。
王女の好みド真ん中の騎士達を宛がい、見事、王女の心と身体を射止めたのだ。
そして婚礼式当日。
王女は消えた。
騎士達と共に。
主の望みは叶った。
邪魔な公爵子息は恋に溺れて失墜した。
全ては主の計画通り。
お見事です。
ローレンス様。
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