第11話結婚

 王家と似たり寄ったりの速さと強引さで私達は結婚した。

 これは私の要望。

 早すぎる婚姻を邪推する貴族は当然いる。


 だからその都度、「私達も皆さまと同様に、何処からかの圧力が加わる前に婚礼を急いだんです」と笑顔で言ってやれば、そそくさと貴族達は逃げ出していく。

 私の嫌味に加えて、ローレンスも「圧力を掛けられ続けて来たので」と笑顔で付け加えれば効果抜群だ。


 王女殿下との婚約はよほど苦労したのね。

 結婚式は身内だけでひっそりと行った。

 これはローレンスの希望。


 王家の目がある。

 派手にはできない。

 けれど、身内だけなら大々的にお披露目してもいいのでは? と言ったが、彼は首を横に振った。


「用心に越したことはないよ。そうだね、公爵家の威信にかけて立派な婚礼を挙げよう」


 ひっそりと慎ましやかな婚礼にはならなかった。

 派手だった。

 ド派手。

 これ大丈夫?

 王家刺激しない?

 まあ、その時はその時だ。

 ブラッドフォード公爵家とブルクハルト伯爵は王家の被害者なのだから。今はまだ。


 ただね……。

 

「ソーニャ、綺麗だよ」

 

「……ありがとう」

 

 結婚式の日から彼の態度が一変した。

 ローレンスが結婚した途端、紳士的な態度が崩れていったような……。

 気のせいではないはず。


「ソーニャ、愛してるよ」


「……え……と……?」


「ダメだよ、ソーニャ。ここは『私も愛してる』って言わないと」


「ダメなの?」


「当たり前じゃないか。僕達は夫婦なんだから」


 なにそれ?

 そんな常識知らない。

 目をキラキラさせて期待されても困るわ。


「……ワタシモアイシテイルワ」


 カタコトになるのは許して欲しい。

 いい慣れてないの!


「もう一回」


「ワタシモアイシテイルワ」


「うん、いいね!ソーニャは可愛いな!」


 お花が飛ぶような笑顔で言われて、思わず顔が引き攣る。

 私、もしかして早まった?

 本当に彼と結婚して良かったのかしら?


 知らないうちにローレンスはブラッドフォード公爵家を継いでいたのだから。

 それも、王女殿下との婚姻式に、よ。

 本人は「王女殿下のいつもの我が儘でね。『公爵子息との結婚』よりも『公爵との結婚』の方が響きがいいからだって。陛下も了承してね」と、笑っていたけど。


 ローレンスが現ブラッドフォード公爵だと知っている人は、いったいどれだけいるのかしら?

 限られた人しか知らない気がするわ。


 あえて口外しなかったのか、それとも……。


 ふるふると首を左右に振った。

 考え過ぎよね。



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