第6話王家の罠
「甘いね、ソーニャは」
「そうかしら?」
「そうだよ。嫌味の一つや二つ言えばよかったのにさ」
「今の二人の嫌味は通じないと思いますけど?」
「確かに」
極力外出を避けて、屋敷で過ごしている。
私としては領地の戻った方が安全に思うのだけれど、それはそれで面倒なことになると家族に言われたので仕方ない。
ローレンスは気を利かせて、しばしば訪ねてきてくれる。
「まあ、あれだ。ソーニャの目がなくなったせいか馬鹿が更に進化してね。笑える」
どうやら私は一定の重しだったらしい。
今では開き直ったのか、クルトと男爵令嬢は人目を憚ることなく逢引しているという。
クルトは婚約者のいる身で堂々と寄子貴族の男爵令嬢をエスコートし、パーティーに同伴している。
人目も憚らずに口付けを交わすこともあれば、時折、二人が一緒に馬車に乗り込む姿もあるそうだ。
「本当に馬鹿よね」
「馬鹿だねぇ。まあ、これでクルトの有責は確実だね」
「……そうね」
婚約解消は確定だろう。
ただ、問題はその後。
「王家がどうでるか、だね」
「ええ」
メイナード公爵家をどうしたいのか。
それがわからない。
婚約解消でもクルトの有責である以上、メイナード公爵家に慰謝料が発生する。
私とクルトの婚約は王命のもの。
王家に泥を塗った形になるのだから通常よりも慰謝料は高いだろう。
「メイナード公爵家は大丈夫なのかしら?」
「さあね?まあ、慰謝料で家が傾くことはないよ。どっかの王家と違ってね」
「そう……」
メイナード公爵家は国有数の資産家だ。
私への慰謝料もさることながら、王家への迷惑料も難なく支払えるだけの財力は有しているだろう。
「まあ、メイナード公爵家の金が目当てなのは確かだよ」
「でしょうね」
「問題は、王家がそれをどう利用するのか、だ」
「ええ」
慰謝料を支払ったところでメイナード公爵家は痛くもかゆくもない。
ただ、その資産を狙って王家が何かを仕掛けてくる可能性は十分にある。
事態は酷くなる一方だというのに彼は気付かない。
どんどん外堀を埋められ逃げ出すこともできない状態に陥っているのに。
憐れと思っても忠告一つしない私も薄情な婚約者だと自覚している。
失って惜しいとすら思わない。
王家の罠に引っかかった彼を擁護することはない。
自業自得だ。
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