闇相撲

芥子川(けしかわ)

第1話

俺は『魔鬼雨まきう』。新しく地元の相撲部屋に入門した力士だ。


ただ、単なる相撲部屋ではなく…『公益財団法人 闇相撲振興会』が主催する『闇相撲』のだが…。


この『魔鬼雨』というケッタイな四股名しこなも闇相撲振興会の役員の宴席によって適当に付けられたものだ。


一応「昔、日本で上映された外国のホラー映画の邦題から取った」との説明はあったが…ホントかどうか疑わしいところである。


そもそもその映画がどんな内容だったのかさえ知らんし。


俺は高校三年の夏休み直前にこの部屋へ入門したが、俺より二週間早く入門していた先輩の中には、すでに廃業してる人も多いらしい。


そんな訳で、今日も稽古と先輩力士の為のちゃんこ鍋作りの一日が始まる。


恐らく、ここまでは皆が知る相撲部屋の日常だと思う…ただ、俺が在籍する闇相撲の取組みに関してはちょっと特殊なので、そちらについて話そうと思う。


まず、粗塩による先制目潰し攻撃が一つの場所につき3回まで許容されている。


当然、4回以上は反則負け扱いだが…ただ、どのタイミングで使うかは力士の裁量に任されているし親方も特に指導することはない(それは同時に目潰しに関するトラブルには一切関知もしないし責任も負わない、という事だ)。


そして、枡席に座ってる客の重要性が普通の相撲と大きく異なる。


一般的にはそこそこ高い金を払って枡席に座る客は漫然と取り組みを見ながら酒を呑んだり弁当を食べたり、行事の決まり手に不服があれば座布団を投げたりする程度ものだが、闇相撲に関しては飛んでくるモノが違う。

単なる投石や鈍器、時には明らかに反社から横流しされたであろう手榴弾やトカレフなどがマガジンに弾がフル装填された状態で投げ込まれるのだ。


当然使わない手はない。


俺みたいな奴が早々と昇進出来たのはトカレフのお陰だと言っても過言ではない。


俺の取り組み表に概ね『決まり手:銃殺』と書かれてる事が多いのはこの為だ。


ちなみに闇相撲では土俵上で相手を殺すような行為が行われても咎められる事はまずない。


何故なら、闇相撲に関しては各捜査機関や司法の判断で『故意に観客に対し危害を加えない限り刑事・民事双方での係争や逮捕拘禁の対象外とする』と通達があったからだ。


つまり、誤って観客を殺害しない限りは土俵の上で殺人を犯しても罪には問われない…要するに誰であれ、土俵に上がった時点で『平等に扱われる』ってことだ。

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