第39話 前世で武神と呼ばれた男、オーガ達を掃討する④

 俺は体内エネルギーで体を『硬化』させて、身体能力を強化する『闘気』を行使することで身体能力を底上げした。


 ハッカ達と違って俺の体からはオーラが漂っていた。単純に俺は体内エネルギーの量が多いので他者の目から見て分かるほどにエネルギーが多い。


「すごい……」


 ソリスがぽつりと呟くと、目を見張っているシェナが口を開く。


「ヒューゴさんに体内エネルギーの使い方を教えて貰ったからこそ、今のヒューゴさんの凄さが分かります」


「これで全盛期より全然弱いからな、全盛期だとオーラだけで山一つ吹き飛ばしてた」


「ヒューゴさんの全盛期っていつですか……? 今、あたくしと同じく一五歳なのでは?」


 そういえばそうだった。ついつい前世の話をしてしまった。


「俺、実は転生してきてな、実年齢がいい大人なんだ」


「ふふっ、冗談言うなんて珍しいですね」


 シェナはおしとやかに笑っていた。


 いや、冗談ではないのだが……まあ、とりあえずオーガ達を殲滅しにいくか。


 俺は跳躍し、エルミーがオーガを潰すのに使った岩の上に乗る。周囲の木々より高く跳んだため、背後にいた人々から感嘆した声が聞こえた。


「さてと……敵が多いな」


 眼前には大量のオーガと激戦を繰り広げているアルベル、エルミー、シノギがいた。


「三人とも少し疲労しているな」


 アルベルは砂を手から放出し、オーガの体に風穴を開けていた。エルミーは精霊術という精霊を呼ぶスキルを使って土精ノームの力を借り、岩でオーガを挟んだり、潰したりしていた。


 そして、シノギはオーガを一体ずつ刀で駆逐していた。


 三人は焦燥した顔をしているが、体力、気力はまだ十分にある。


 俺が判断するに三人で七〇体倒してる。これが他国を代表する冒険者の実力か。


 しかし、さっきオーガが増えたせいで敵はまだ一〇〇体近くいた。


「キリがない! 三人で固まって敵を叩くぞ!」

 

 アルベルは戦っている二人に指示をする。


「……御意!」


「どう戦うの!?」


 アルベルの両脇にエルミーとシノギが立つ。話を聞く限り、エルミーが岩を振り落としてオーガが進行してくる方向を二手に分けるそうだ。そこで二手に分かれた道の先でシノギとアルベルが戦いつつ、エルミーが二人を回復させる精霊術を使い続けるらしい。


 今はオーガに囲まれながら戦っている。しかし、戦いが続けば、隙ができ死角にいるオーガから攻撃を食らいかねない。そういった不覚の事態に陥らないための作戦らしい。


 三人はオーガから距離を取って体勢を整える。


「よっと」


 俺はそんなことはお構いなしに跳躍し、三人の前に現れる。


「君は!」


 アルベルは思わず声を出していた。


「加勢は嬉しいけど、今、せっかく連携を取ろうとしているときに余計な邪魔はしないほうがいいよ」


 エルミーは優しい口調をしながらも俺を嗜めていた。


「ここは俺に任せてくれ……あっ! 刀貸してくれる?」


「むっ……刀を使えるのか?」


 俺は思い出したようにシノギに話しかけていた。


「刀剣の類なら一番得意だ……今からあのオーガを全て蹴散らす」


「「「!」」」


 俺の言葉を聞いた三人は驚いてキョトンとしていた。


 そんなこと言ってる間にオーガが迫ってくる。


「ああ、もう! オーガ来ちゃったわよ!」


「責任はとる!」


 エルミーは頭を抱えていたので俺は自信満々な様子を見せた。


「騙されたと思って貸してくれ」


「……」


 シノギは険しい顔をしながらも刀を渡してくれる。


 俺は前に躍り出て抜刀し、頭上高く刀を構える。


「奇妙な構えだ……」


 シノギは小さい声を出していた。


「オーガを全て蹴散らすなんて……そんなこと本当に可能なのかい!?」


 アルベルは不安そうだった。それは他の二人も一緒だ。半信半疑というより、俺が負けるのではないかと思っている様子だ。このままでは俺もろともオーガに殺されてしまう不安を抱えている様子だった。


「まあ、見とけって……」


「殺されるわ!」


 エルミーの心配をよそに俺は目の前のオーガを見据える。


「…………『第一刀剣奥義・おぼろ』」


 自然エネルギーを刀の切っ先に集める。そのエネルギーを螺旋回転させつつ、巨大な球体の塊にする。周囲に嵐が吹き荒れ、アルベル達どころかオーガ達もその場に立つことに必死だった。俺の回転させたエネルギーによって木々は大きく揺れ動き、空には雲が渦巻いていた。人から見たら天変地異が起きているように見えるに違いない。


 そして――刀の切っ先には人よりも、オーガーよりも、今世で出会ったどの魔物よりも大きなエネルギーの球体ができていた。

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