第32話 前世で武神と呼ばれた男、魔物がいる洞窟へと向かう②

 数多の地響きが聞こえてきたかと思えば、前方にある木々が次々とひしゃげる音が聞こえる。


「あ……あれは!」

 

 ヒルダの連れの騎士が怯え声を出しながら前方を指さす。


 続いてへロルフが口を開く。


「オーガの群れだ……!」


 彼は驚愕した表情で木を踏み潰してきたオーガ達を見据える。


「ヒュー君、これまずいかなぁ? なんか何十体もいるように見える~」


 周囲の人達が緊迫している中、ソリスはいつも通りおっとりした様子を見せるとハッカが慌てながら突っ込む。


「まずいどころじゃないって! 一〇体や二〇体どころじゃないぞ! 皆、殺される!」


 彼の言う通り、異常に多い。


 自然エネルギーが伝って遠方にいる相手の姿形は把握できる俺には何体いるかも分かる。


 今、ゆっくり歩を進めているオーガは一列五体で並んで歩いてきている。そしてその奥にはその列がずっと続いている。まるでオーガの軍隊だ。


「ヒルダさん! こんな数のオーガがいるなんて初耳なんですが……」


 シェナが慌てながら依頼主の娘であるヒルダに声をかける。


「あたしだって知らないわ……でも異常事態ですの。ここまで来たら冒険者の領分じゃない……急いで町に戻って貴族や国の軍から援軍を呼んだ方がいい」


 彼女は退いて体制を建て直そうとしていた。


 普通ならそれが懸命かもしれない。近くにいる町の人々があっという間に殲滅されてしまう……なんせ七〇体いるからな。それにあの統率された動きからして知能ある者が統率者なんだろうな。


 だが、この場には俺がいる。


 そろそろ、運動がてらオーガ達を蹴散らそうと思ったそのとき、今まで静観していた二組の冒険者が動き出した。


 男女一組のペアと東方風の格好をした一匹狼の冒険者だ。


 総勢三人の冒険者が前に出るとファウスが彼らを引き止めた。


「おい待て! 見たところこの辺の冒険者じゃないようだけど! 無茶だ! 逃げよう!」


 するとペアの冒険者である茶髪の男が口を開く。


「俺なら大丈夫だよ」


 彼が穏やかな微笑みを返すとファウスは思わず口を噤んでいた。


「アルベル準備はいい?」


 茶髪の男の相方である女性が口を開く。どうやら男性の方はアルベルと言うらしい。


「当然だ! エルミーも油断するなよ」


 女性の方はエルミーと言うらしい。


 次にアルベルは東方風の男に顔を向ける。


「で、そっちの東方から来た人も中々、腕が立つと思うから左側のオーガは俺らが倒すから、右側を頼む」


「……御意」


「ありがとう、名前を聞いてもいいかい?」


「……シノギ」


「へぇ、君がそうなんだ。あっちでは有名人だよね」


「貴殿こそ、向こうでは有名ではないか」


 俺が実力者だと思った三人はお互いに面識があるらしい。


「ソリスとハッカはあの二人知っている?」


「知らない~」


「異国の冒険者っぽいしな、というかオレは冒険者に詳しいわけではないしな」


 ヒルダやへロルフ、シアドとシェナもあの三人を知らない様子だ。


「噂程度に聞いたことあるぞ……」


 ファウスは口を抑えながら戸惑いを隠せない様子だ。


「間違いないわ――」


 その後、ブランカが得心したような顔をして喋り続ける。


「――アルベルとエルミーは砂漠の英雄と呼ばれている冒険者です。領土のほとんどが砂漠に覆われた国の出身で領土の半分を支配した破壊の魔王と呼ばれる魔物を倒しています。もう一人はシノギと言って東方では剣聖と呼ばれている冒険者、東方で暴れていた八叉の龍を単独で倒した男です」


 やはり思った通り、相応に強いらしい。そしてその三人は何故か俺の方を見ていた。


 俺が首を傾げるとアルベルが声をかける。


「君も中々強いでしょ、万が一、俺達がオーガを打ち漏らしたらやっつけてもらえるかな」


「ああ、分かった」


 俺は二つ返事でアルベルの頼みを聞き、彼らの背後へと移動し始めるとハッカが耳打ちをしてきた。


「正直、どうなんだ? あいつら倒せるのか?」


「難しいな……」


「やっぱりヒューゴでも厳しいか」


「数が多いからな。全員を相手にするなら今の俺だと、多く見積もって二〇分は欲しい」


「全部、倒せるのかよ……」


 ハッカは何故か顔を引き攣らせていた。とりあえず、無視しよう。


 さてと、砂漠の英雄と剣聖。どれくらいの実力なのか見せてもらうか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る