第26話 前世で武神と呼ばれた男、師になる①

 冒険者ギルドの手続きは領主であるエドゥアルドにしてもらうことになり、俺は彼の息子と娘に修行をつけることにした。


 エドゥアルドの息子であるシアド・ラゴールの授かった職業は『炎武王』。あらゆる炎のスキルを扱えるらしい。


 炎武王というのは大昔に存在していた国の王だ。というか知り合いだった。茶色髭の大男で気さくな男だったが敵には容赦はなかった。彼の炎を放出する武術や炎の魔法は鉄をも一瞬で溶かす。人間の中では彼と戦える者はほとんどいないと思う。


 シアドはかの炎武王と同等の火力を誇る炎は出せないだろうが今後が楽しみだ。


 そして、シアドの双子の妹であるシェナ・ラゴールの授かった職業は『戦乙女』。エドゥアルド曰く、『戦乙女』は五〇年ぶり二人目の職業らしい。『戦乙女』はあらゆる武器を召喚し、風を纏って飛ばすスキルを有するらしい。先代の『戦乙女』は冒険者として活動していたらしく、世界最強の冒険者の一人だったらしい。


 そんな二人を鍛えることができるんだ。これほど胸が躍ることはないな!


 さらに俺はハッカとソリスにも修行をつけることになっている。二人は狩猟経験があるが、対人や魔物との戦闘経験はない。それに二人共、ろくにスキルを使ったことないので、この際、皆でスキルを使い合おうということになった。


 今、俺達はエドゥアルドの屋敷の庭におり、ラゴール家お抱えの兵士達の訓練場にもなっている場所にいる。


「初めまして、私、ソリスと言います~」


「オレはハッカです」


 二人はシアドとシェナに挨拶する。


「僕はシアド。こっちは妹のシェナだ」


「よろしくですの」


「おお……」


 何故かハッカは二人の態度に感嘆していた。


「なんでそんなに感動してんだ」


「この前会ったルゴ家の奴らと違って礼儀正しいから驚いちゃった」


 ヒルダとへロルフのことか。あの二人と比べると確かに腰が低い気もする。


「それで、なにするの?」


 ソリスは首を傾げてこちらを見る。


「ハッカとソリスはろくに授かったスキル使ったことないだろ。とりあえず、順に俺と戦って様子を見たらいいんじゃないかな~? シアドとシェナもそれでいいか?」


 シアドとシェナは俺に応じるように頷く。


 最初の相手はハッカだ。


 ハッカはラゴール家から大斧を借りて俺の前に立つ。彼は狩猟でよく斧を使っている。そして、今回、俺は相手に合わせて同じ武器を持つことに決めた。


「来いハッカ。俺相手に遠慮はいらない」


「んなこと分かってるって! 『物理攻撃力上昇』 『物理攻撃無効』 『俊敏特大上昇』」


 ハッカの筋肉が膨れたかと思えば、一気に俺の目の前まで距離を詰めてきた。


「いいね! すっごくいいぞ!」


 俺は笑いながらハッカがあらゆる方向から振るう大斧を受け流し続けた。

 

 一〇合……二〇合……三〇合と俺はその場から動かずにハッカの攻撃を捌いていた。


「もっと遠心力を使って振るわないとな」


 俺は斧を横に軽く振るう。


「う、うわああああああああああああああああああ!」


 俺の得物を斧で受け止めたハッカは後方に吹っ飛んでしまい、地面にコロコロ転がった。


「ほい次、ソリス!」


「うん分かったっ」


 ソリスが俺の前に立った瞬間、


「『錬金術:鉄線アイアンロープ』」


 いきなりスキルを唱えた。彼女の前方から刺々しい鉄線が幾つも飛び出した。


「これが錬金術か!」


 俺は大斧を捨て、両腕を体の前に構え、鉄線を受けた。


 鉄線は俺に掠り傷を一つも付けることなく弾かれてしまう。


「わぁ~さすがヒュー君」


「まっ、ソリスは距離を詰められたらおしまいだな。『風足ふうそく』」


 俺は右足を踏み込んだ瞬間にソリスの目の前まで移動した。『自然エネルギー』をバネのような形にし、そこを踏み込むことで一気に前方へと跳躍した。くわえて俺の身体能力があれば、さらに加速する。これがオリジナルの移動術『風足』だ。


「せいっ」


「うぅ」


 俺はソリスの額にデコピンをした。彼女は眉を曲げておでこを押さえていた。


 さて、次はシェナとシアドの実力を測ろう。

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