第14話 前世で武神と呼ばれた男、尾行者と話す
俺を殴っていた男性達は疲弊したのか、息絶え絶えになりながら寝転んでいた。
その後、俺は男性に絡まれていた女性もとい酒場の娘を連れて酒場のマスターの下へと送った。
マスターから大いに感謝され、そのお礼に今晩はタダ飯を作ってもらうことになった。ハッカとソリスには悪いのでタダ飯を断ろうとしたが、マスターは二人にも快くご飯を作ってくれるとのこと。
俺、ハッカ、ソリスはテーブルに着き、食事を始めた。
マスターが用意してくれたのは小麦のパン、ハーブ入りオムレツ、ニンニクのスープだ。
オムレツには刻まれたパセリが入っており、マイルドな風味で食べやすい。ニンニクを使っているのにも関わらず、スープには刺激臭もなく、後味も残っていない。特別な工夫がなされているのだろう。
「マスターさん、ありがとうございます~」
ソリスはマスターに対して軽く会釈する。
「いいってことよ、これで恩を返せるなら安いもんさ」
マスターは白い歯を見せたあと、厨房へと戻った。
「ヒューゴさ、絡んできた男達はどうしたんだ?」
「衛兵の詰所がある方向に向かって投げた」
「人をボール扱いすんな」
ハッカと取り留めのない話をしながら食事を進める。
食事を終えた頃、一人の男が近づく。
「おい」
ぶっきらぼうな態度を見せた男――へロルフはテーブルに手をつく。
「どうした? ご飯食べるお金ないの?」
「お前は貴族に何を言っている……今、時間が空いているならこい」
「おけおけ」
俺は空返事をしながらヘロルフについていくとソリスが心配そうな顔をする。
「ヒュー君、また決闘するの?」
「いや、多分しないよ。今のへロルフからは敵意を感じない、むしろ、何故かおかしなやつを見る目で見られてる」
俺がそう言うと、ハッカがその点に関しては俺も納得だと言っていた。
それから、酒場の外へと行く。
へロルフの後を追うと彼は街の水路にかかっている橋の上で立ち止まって俺の方を向く。
「お前は……お前は……」
言葉を溜めに溜めた後、彼は堰を切ったように喋り始めた。
「お前はなんなんだ。何を考えている。急に荷物運びを助けたかと思えば、あえて町を何週も走った後で荷物を届けた。女性を助けたかと思えば、あえて男共に殴られ続けている。さっぱりお前が理解できない」
もはや尾行したことを隠す気はないようだ。一応、尾行していた理由を聞こう。
「俺を付けていたようだけど、理由を聞いてもいい?」
「最初はお前に因縁を付けようと思って尾行していた。だが、おかしな行動をとっているうちに不思議な行動をとるお前の心理状態が気になった。そして、俺は自分自身に許せない行為をした」
へロルフは忸怩たる思いがあるかのように下唇を噛んでいた。
「許せない行為って何?」
「女性が不埒な輩に絡まれていただろ」
「うん」
酒場の娘が男二人にナンパされてた話か。
「俺は貴族として女性を助けなければならなかった、しかし、認めたくないことにお前の不可思議な力を信用し傍観者となっていた。お前を強いと認めたこと、そして女性を率先して助けれなかったことが情けない」
今の発言でかなり、へロルフの印象が変わった。
俺に付いてきている時点で根性があると思った。そして今の発言でなんだかんだ素直さを持っている青年だということが分かった。
でも、ちょっと待てよ。
「貴族の矜持として女性を助けたい気持ちがあるのは分かった。でもなんで、そんなやつが俺に因縁を付けようと追い回してたんだ。貴族の矜持がどうでもよくなるくらいドロップキックが嫌だったのか……それは悪いことをしたな」
「ち、違う。俺自身が蹴られたことはどうでもいいんだ。ただ…………………姉が蹴られたことが許せなかったんだ。」
へロルフは言葉を溜めたあとに思いの丈を打ち明けた。
「シスコンか」
「違う&! 断じてそんなのではない! 絶対に絶対に違う! 別に普通だろ? 親族が蹴られたから敵意を持つってのは? そんなにおかしなことか? おかしなことではないはずだ!」
「うわ、いきなり声が大きいな」
シスコン確定だ。
「それとまだ言いたいことがある」
へロルフは真剣な顔をする。何か話があるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます