第13話 前世で武神と呼ばれた男、チンピラに殴られてみた
「お~いたいた」
俺は声を上げながら細道に入っていく。
赤毛で二つ結びの女性が二人の男性に絡まれていた。男性はそれぞれ、細身とふくよかな体をしており対照的な体型をしていた。
「ちょっとお茶しようよ~」
細身の男性が女性の腕を掴んで揺さぶっていた。
「あの、買い物カゴに食料が入っているので腕を揺らさないください……」
女性はか細い声で反抗していた。
助太刀に入らなければ。
「へい、へい、へい!」
俺は手を頭上の位置で三回叩いて、皆の注目を集めた。
「「は?」」
男達は声を漏らし、女性は口を半開きにしていた。
「なんだお前!」
「そうだい誰だい!」
細身の男性が女性から手を離し、声を荒げると、ふくよかな男性が続いて声を出す。
「その子、裏路地にある酒場の娘なんだよ。父親が心配してるからさ、開放してよ」
「嫌だといったら?」
お決まりのような台詞を吐きながら、細身の男性は握った拳を反対の手で包んで指の関節をポキポキと鳴らす。
どうやら戦う気のようだ。
「じゃあ戦おっか!」
俺はノリノリだった。するとふくよかな男性が口を開く。
「こいつ思い出しただい! 職業『無職』のやつだ!」
「『無職』!? ギャハハハ! そんな奴が俺が授かった職業『拳闘士』に勝てるわけないだろ!」
二人はお腹を抱えて大笑いした。
「いい機会だ、俺のスキルを見せてやる!」
細身の男が右拳を引いて、駆けだし、
「【
スキルを発動しながら俺の顔面に右拳を叩き込んできた。
「へへっ! どうだぁ……って、あれ⁉」
一瞬、白く光った右拳は俺の顔面に突き当たったままだったが、威勢の良かった男は微動だにしない俺に慄いて後ろに数歩下がった。
なるほど。
これは『魔力』由来のスキルじゃない。俺と同じ『体内エネルギー』由来の力だ。だが、今のこの世界は『体内エネルギー』という概念そのものを知らない。概念を知らなければ鍛えようもない。
ん? 急に俺を殴ってきた男が
「うっ……急に痛みが」
男は右拳を左手で押さえていた。
拳を受ける際、体内エネルギーで体を硬化させたが、硬化の度合いが強すぎて負傷してしまったらしい。人相手に加減する術を学ぶ必要がありそうだ。
「よし、おいそこのお前! お前もだ!」
俺は蹲った男と戸惑っているふくよかな男を順に指を指しながら話を続ける。
「俺は殴れ!」
「「え!?」」
「いいから殴れって言ってんだろ!」
俺は思わず、地団駄を踏むと、街道がぐにゃっと
「「え、こわ……」」
二人は身震いしながらも、俺の言うことに従ってくれた。
そこからしばらく、人が怪我しない程度に硬化の度合いを調整したいので俺は殴られ続けた。
「もっとだ! もっと強く!」
「ひぃぃぃ!」
二人の男は泣きながら俺の顔面を殴りまくっていた。痣一つできないどころかその場から動かない俺に畏怖しているのか顔が青ざめていた。
「次は胸部を殴れ!」
「は、はい!」
「次は腹部だ!」
「は……はい!」
「もっと腰を入れて殴れ!」
「「す、すみません!」」
男達は必死に俺の体を殴りまくった。
一方、助けた女性は、
「な、なんなの、この人……」
顔を引き攣らせていた。
そして、未だに俺を尾行しているへロルフは、
「何してんだこいつ」
いつものクールな口調と打って変わって、呆れたような声を出していた。
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