前のエピソード――第8話　前世で武神と呼ばれた男、男爵家の娘と決闘する①

　俺がヒルダの【光槍（ライトスピア）】を模倣し、彼女の技を掻き消したことで、

「イ、カサマしてる！　きっとイカサマしてるの‼」

　ヒルダは俺を非難していた。

「そうだ！　姉上の技をマジックアイテムで真似したんだ」

　さらに彼女の弟のへロルフも大声を出す。

　マジックアイテムというのは使い切りで魔法を発動できる道具だ。例えば、杖に炎を飛ばす魔法が込められていて、その炎は一〇回まで飛ばせるとか、そんな感じだ。

「マジックアイテムなんかないない、じゃあ確かめてみるかい？」

　俺は服を脱いで上半身、裸になった。

「きゃあ！　変質者！」

「おいおい上半身、裸になっただけだぞ」

　ヒルダは両手で顔を覆い隠していた。

　すると、観客席にいるハッカから野次が飛んできた。

「おま！　馬鹿か！　貴族の嫡女の前でいきなり服を脱ぐやつがあるか！　本当に捕まるぞ！」

「その程度のことで捕まる世の中なら！　俺が変えてやる！」

「急にカッコいいこと言うな。そんなこと言う場面じゃないだろ」

　俺の返事にハッカは呆れていた。おかしいな俺は思ったことを言っただけなんだけど。

「ヒュー君、この前よりムキムキになってる～」

「えぇ!?　なんでそんなこと知ってんだよ！」

　ハッカはソリスの反応に驚いていた。彼に真実を告げよう。

「実は最近な！」

「まさか……お前ら二人ともつ、つ、つきあって――」

「――ソリスの家の前にある木を使って懸垂してんだ！　上半身裸で！」

「そうなんだよね～、日に日にヒュー君の筋肉がムキムキになるの面白くて」

「あぁ、デキてるわけじゃないのか。いや、にしてもお前ら二人共頭おかしいわ」

　ハッカは両手で頭を抱えて座っていた。

「とりあえず、マジックアイテムは持っていない！　なんなら裸になろうか！」

「そ、そこまでしなくてもいいですの！」

「なら試合続行だな」

　俺がそう告げると、ヒルダは悔し気な表情をした。そのあと、彼女は落とした槍を拾い、

「これは何かの間違いですの！　この技なら……」

　何やらとぶつぶつ言っていた。次に彼女は口を開く。

「【収束（レイ）・光天星（ティンクルスター）】！」

　彼女は投擲するような構えで槍を持つ。

　槍が光輝いた瞬間、ヒルダの体は光に飲み込まれる。

　また大気中から幾つもの光の奔流ができ、槍に収束されていた。

　大掛かりな魔法だ。おそらく、闘技場ごと吹っ飛ぶだろう。

「終わりですの！」

　ヒルダが槍を放つと、その槍は何倍も大きい光で象られた槍となっていた。

「ヒューゴ！」「ヒュー君！」

　観客席にいるハッカとソリスが焦燥したような声を出していた。

　おそらく、これを凌げば彼女は戦えない。何故なら、彼女はスキルで高度な技を行使することはできてるが魔力量が追いついてない。俺は『体内エネルギー』と『自然エネルギー』を主体とした戦闘スタイルだが、魔法を使う者を相手にするために、相手の魔力量を測る術や魔力を感知する術を習得している。そのため、彼女の状態は分かる。

　さてと、俺も久々に前世で使ってた技でも使おうかな

「【雪穿雲掌（せつせんうんしょう）】」

　俺は宙に向かって掌底突きをする。『体内エネルギー』を練り上げて、放出したエネルギーを氷点下以下に操作することで氷を生成して放った。氷の生成量は放出したエネルギーに比例する。俺はほんの少しのエネルギーを放出したつもりなのだが。

「そ、そんな！」

　ヒルダは目を丸くしていた。

　【雪穿雲掌（せつせんうんしょう）】は彼女の放った技を呑み込み、アリーナを覆い、観客席までに氷が広がった。