第8話 前世で武神と呼ばれた男、男爵家の娘と決闘する①

 俺と相対しているヒルダは両手に持った槍を宙に突き出しながら口を開く。


「【光槍ライトスピア】!」


 槍の形を模倣したかのような光が俺に向かって飛び出してきた。


「ほう」


 唸りながら光の槍をガシッと両手で掴んでみせた。


「はっ!?!?」


 ヒルダは素っ頓狂な声を出すと、


「「「いっ!?」」」


 観客席にいる人達も驚嘆していた。


「素手で私のスキルを掴んだ!? どうやって?」


「ふむふむ……なるほどな」


「しかも振り回してますの……」


 俺はヒルダが飛ばした光の槍を片手でくるくると回す。


 神から授かったスキルはおそらく、動作に伴ってスキル名を叫ぶことで発動するんだ。確かになんの修行もせずにこの力が得られるなら、スキルの力に溺れてしまうのかもしれない。


「あ、消えた」


 俺が持っていた光の槍は空中に霧散してしまった。


「貴方本当に『無職』なんですの!?」


「その言い方だと働いてない人みたいになるからやめてって~」


「くっ、ふざけた人ですの! 【光槍ライトスピア・|雨《レイン】!」


 ヒルダが槍の穂先を空に向けると、槍から光の塊が飛び出し、その塊から幾つもの光の槍が俺の頭上に降り注いできた。


 俺は光の槍が体に当たる直前で、手刀で吹っ飛ばし続けながらスキルについて分析した。


 今、ヒルダが扱ったスキルは結局のところ、魔力の塊だ。体内から魔力を放出し、想像力で形を具現化したものだ。


 一方、俺は素手で『魔力』と似て非なる力で彼女の技を無効化していた。俺は今、『体内エネルギー』を体から放出し体を硬化させて光の槍とやらを跳ね返している。



 『体内エネルギー』というのは文字通り人の体に流れているエネルギーだ。『体内エネルギー』を自由自在に扱うことができれば筋肉、皮膚、五感を強化できる。


 『体内エネルギー』は使えば使うほど体内に蓄えられるエネルギーが増え、効果も威力も増大する。


「さて俺も同じもの作ろうかな、なんかかっこいいし【光槍ライトスピア】だっけ?」


 俺は右手を前方に振るって、光の槍を飛ばした。俺が飛ばした槍はヒルダのものより数倍は大きいので、落ちてくる光の槍を全て掻き消すことができた。


「嘘!?」


 ヒルダは思わず槍を落としていた。


 俺は今、『魔力』の代わりに『体内エネルギー』を体内から放出し、想像力で形を槍の具現化した。そして、『自然エネルギー』によって槍を飛ばした。



 『自然エネルギー』というのは大気中に漂っている目に見ないエネルギーだ。『自然エネルギー』を自由自在に扱うことができればあらゆる物質を操作し変形させることができる。つまり俺は『体内エネルギー』で作った槍を飛ばすために自然エネルギーを用いて風を操作している。


 『自然エネルギー』は使えば使うほど、より大きなものを複雑に操作することができるようになる。


 前世の俺はエネルギーを扱った戦闘を極めた。


 しかし、転生した俺は当然、『体内エネルギー』の量も『自然エネルギー』の修練度も未熟だ。しかし前世で培った戦闘技術が無くなるわけでない。さらに転生してから赤ん坊の頃から修行を重ねてきた。


 修行を続ければどんなスキルだって模倣することができるだろう。

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