第53話 第四王子・第三王女
金髪の少年はオーバ・チュアとフリートへの連絡事項を伝えた後、自分の部屋に直接戻ることはなく、西に向かって歩く。
今日は満月だった。
そのため、夜でも西に進むにつれて薄っすらとした、しかし、しっかりとした光が照らしていた豪華な廊下が見えた。その廊下はスルトの持つエリアよりも、ずっと新しく、またスルトの持つエリアほど明らかに隅々まで掃除されているような感じでもなかったが、キレイにしていることは違いなかった。
金髪の少年は左目を使い、誰にも遭遇することなく、スムーズに足を進めた。
金髪の少年は1つの部屋の前で止まった。
金髪の少年はその部屋の扉を時間が時間なので、控えめにノックを5回した。
すると、すぐに扉が開き、金髪の少年は中に入る。
金髪の少年を迎えたのは2人の青年と女性だった。
その2人はとても似た顔立ちをしていて、どちらも深い青色の髪で黄色の瞳を持っていた。2人と相対する金髪の少年とは髪の色と瞳の色が真逆になっている。それに、2人はどちらも美少年・美少女と言って差し支えないほど、男女問わずに引き付ける美しさがあった。
しかし、そんな2人にも違うところは当然あるわけで、それは他人から見ても一目瞭然の事実がそれをはっきりと示していた。
そして、スルトはそれに目を向ける。
部屋に入ってさらに奥の部屋に行くと、2人が座っていた椅子の周りと机があった。
1人の椅子の周りにはバラバラに積み上げられた今にも崩れそうな数々の本があった。しかも、それらのどの本もとてもボロボロだった。他にも、何に使うのか分からないような怪しげなぬいぐるみ、空のお菓子の包み紙などが散乱していた。
もう1人の椅子はそれとは全く違う世界にいる、紙に書いたような素晴らしい管理能力が遺憾なく発揮されていた。数冊の本はきれいに積まれ、その上には目を奪われるようなイヤリングが置かれていた。
それから、机の上だが、まるで1つの境界線が2人の空間を隔てるかのように線対照だった。片方はティーカップに、ヘアピンに、よくわからない薬のようなものなどがごちゃーと広げられていた。もう1つにはティーカップ1つだけがポツンと置かれていた。
スルトは2人の椅子とテーブルを挟んで置かれているもう1つの椅子に腰を下ろす。
「こんばんは。イクス兄さま、ラウム姉さま。すみません。少し、遅れてしまいましたか?」
そう謝る弟に対して、ラウムは言葉少な目に返す。
「大丈夫。」
「そうでしたか。それなら良かったです。」
その後、イクスが喋る。
「よし、スルトが来たことだし、お茶会を始めようか。」
「えっと、スルトはいつも通り、ダージリンティーでいい?」
イクスは幼い子どものようにそわそわした様子で、スルトの紅茶を準備しようとする。
そして、それを見たラウムが少し慌てた様子でイクスを止める。
「イクスは座ってて。私がやる。」
「えー。今くらい、いいじゃないか。」
イクスはそう言って口を尖らせるが、ラウムはそのまま、紅茶の準備をする。
イクスは料理をするのが下手なのだ。いや、もう下手とか言うレベルではなく、どうしたらそうなるのか聞きたいレベルで確実に全くの別物になってしまうのだ。まあ、かと言ってラウムも料理が上手か言われたら、唸ってしまうようなそんな感じだ。
そんなこんなで、今回もラウムの「食品触るな」令により、スルトの安全は保障されたのだった。
そんな2人の様子を見て、スルトは少しだけ顔を緩める。
そして、同時に自分の左耳に触れる。
それは数少ない自分の無意識に現れる癖と言えるものだった。
スルトはこの2人を見ると、微笑ましく感じていた。しかし、同時に何故か心の中がざわつくのだ。スルト自身、謎で、どこかで前世にも、今世にもいない血のつながった兄弟が欲しいと思っているのだろうかと勝手に予想したこともあるが、あまり支障はないため、深く考えていなかった。
ラウムが紅茶の準備をしている間にイクスは本題を切り出していた。
「それで、スルトに頼まれていた件なんだけど、それは順調だよ。十分、1ヶ月後までには間に合うと思うよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「いや、いいんだよ。かわいい、弟の頼みだし、これはこれからの王国にとって必要だと私自身が考えたからね。」
「それと、これも完成したよ。」
そう言って、イクスはラウムの椅子の隣に置いてあったイヤリングを渡す。
イウムがもし、自分で持っていたら、壊してしまうかもしれないというか、絶対に壊してしまう自信しかないのでラウムに保管をお願いしたのだ。「あ、でも、壊す前にどこにいったか分からなくなるパターンもあるか」とぼんやりと考えるイウムだった。
「今回は、結構難しかったからね。まさか、魔力、体力を回復させる機能を持たせるなんて無茶苦茶だよ。苦戦したんだよー。まあ、まだ試作段階だから、何かあったら、言ってね。でも、これはうまくできたと思うんだ。」
「分かりました。もし、何かあれば、またその時にお願いします。」
そう満面の笑みを浮かべるイウムにスルトは笑みを浮かべる。
ちょうど、その時、ラウムがおしゃれなティーポットを片手にもう一方の手にティーカップを持って戻ってきた。
「はい。」
「ありがとうございます。」
スルトは注がれた紅茶に一口つけ、カップをまた戻す。
それから、スルトは立ち上がった。
「紅茶をせっかく入れていただいたのに申し訳ありません。」
「では、また一週間後。」
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