第52話 テスト

金髪の少年はゆっくりとも、早いとも言えないような足取りで使用人たちが使っている部屋に向かっていた。


 その廊下はやはり、スルトに与えられているエリア内のものなので、少し古い感じは否めないが、とても綺麗に掃除されていたため、汚いというよりも清潔という感じの方が強かった。


金髪の少年は目的の部屋の扉の前に立ち、ノックをする。


コンコンコン。


「スルトだ。入っていいか?」


中に入た2人がビクッと肩を震わす。


そして、少しの間、どんよりとした空気が流れる。


2人はスルトの声が再びかからないように素早く行動する。




2人は声も出さずに手を出す。


何も言ってないはずの2人はまるで双子かのように息ぴったりで同時に振りかぶる。


それから、互いに手を繰り出した。



(せーの!)



(ジャンケン、ポン)

(じゃんけん、ホイ)



 オーバ・チュアがパーで、フリートがグーだった。フリートの反応はというと、年齢の割に若い顔の眉を下げていた。

 しかし、もうそろそろ、スルトの声が再びかかる頃合いだろう。




そう予想したフリートは覚悟を決めた顔で扉のドアに手を伸ばす。


その手が微かに震えていたのは白髪の青年の尊厳のために見なかったことにしておこう。



無論、その様子を虹の瞳イビルアイで見ていた金髪の少年が首を傾げていたのはいうまでもない事だった。





開けた扉からスルトが入ってくる。


オーバ・チュアがスルトにフリートとのジャンケンの後にすぐに用意していた椅子を勧める。


スルトの前に跪いた2人の前にあった椅子にスルトは腰を掛ける。


そして、心中ではビクビクしている2人に声をかける。


「ああ、君たちはそこまでする必要はないよ。」


「君たちはあくまで僕の部下で、僕は君たちにとってただの上司だからね。」




そう言ったスルトを見て、2人は顔を見合わせる。


代表して言葉を返したのはオーバ・チュアだった。


 順番的に考えても、今までの負担から考えてもフリートに全て任せるというのは、虫が良すぎると思ったからかもしれない。


「もったいなきお言葉です。しかし、これは儂らの気持ちです。どうか、受け取ってくださいですじゃ。」


「そうか。」





「まあ、そんなことより、話をしよう。」


ついに来たかと、2人は息を止めてじっと待つ。


「君たちはよくやった。なかなかの訓練をしていたようだね。君たちの拷問を担当していたシエガは僕の配下の中でも腕利きでね。特に拷問とかは彼の得意分野なんだよ。彼の拷問で精神的に死んだ者も少なくない。」


2人は心の中で叫ぶ。

(なんて人にさせるんだよー)

(なんて人を選んだんじゃー)と。


「まあまあ、君たちの怒りは分かるけれど、それはいいんだ。」


「取り敢えず、1つ目の試練クリアおめでとう。」


2人はまたも心の中で絶叫する。

(何がいいんだよ!)

(何がいいんじゃよ!)と。


しかし、2人は怒りよりも何より戸惑っていた。このとんでも上司の思考がぶっ飛びすぎて脳が追いつかないのだ。





だが、スルトは気づいていないのか、いや気づいていても気にしていないのか、本題に入る。


「それで、2つ目の試練なんだけど、闇ギルドの壊滅をさせるのを手伝ってもらう。詳細はシエガに聞いてくれ。」


2人は自分たちを拷問したシエガよりも、スルトの方が比にならないくらい恐ろしかったため、反論は一切しなかった。いや、できるわけもないだろう。


「それと、2つ目の試練をやるのに、少々時間があるため、ピクニックに行こうと思う。明日の6時に僕の部屋に来てくれ、そうだな、10日くらいを見安に考えているから、それを参考に準備してくれ。」


「…あの」


そろりそろりと手を挙げるフリートにスルトは尋ねる。


「なんだ。」


「そのピクニックってどこで、何をするんですか。」



2人はひそかに願った。


この人が普通のピクニックなんてするわけがないが、どうか普通のピクニックであってくれと。







しかし、スルトはそれとは別の事を2人に告げた。


「それは秘密だ。それとその前に、1つテストをしたいんだ。」


2人の声にこれ以上ない程の力が籠る。


「何でしょうか。」

「何でしょうか。」


「それは君たち対僕での模擬戦だよ。」


「はい?」

「んーん?」


2人の頭の上で、たくさんのはてなが飛び交う。


もはや、失礼などとは考える余裕もなかった。


「ここの近くにある中庭なら今の時間だし、めったに使う人もいないだろう。それに、僕が防音の魔法を使うから、遠慮なくやっていいよ。」


やっと目の前の少年が言ったことを理解した2人は全力でそれらの言葉を否定する。


「いや、そうじゃなくてですね…」

「いや、そうじゃないんですじゃ…」


もう、いろいろなことがズレすぎていて、2人はそうとしか言えなかった。


しかし、スルトはそんなことを聞くこともなく、一言だけ残して颯爽と去っていった。



「今から1時間後にここに迎えに来るから。」

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