押しかけ王子の花婿修行~かりそめ夫婦の10日婚~
ワタリ
第1話:先生の首輪
「先生がくれたこの首飾り、ずっと何かに似てると思ってたんです」
ぶら下げるようにぷらんと頭上に浮かべて私の目の前に差し出す。首飾りのトップの魔石がゆらゆらと振り子時計のように揺れて、それを目で追った。この状況から少しでも目を背けたかったからだ。
「よそ見しないでくださいよ」
困ったようなふりをしてセルディックが笑う。
「お前が見せたんだろうが」
恨めしい声を上げてヤツの顔を見上げるとそれもそうですねとセルディックは笑った。
「これね、首飾りというより首輪みたいだなって思ってたんです。きっと先生はそのつもりで僕にこれをくれたんですよね?」
「今更答えを知ってどうする? 皇太子に首輪なんぞつけて、不敬罪で私の首を
まさか! とセルディックは慌てた声をあげて狼狽える。
「そんなこと考えてもいません。むしろ、貴方がされたことは至極当然だ。出会った頃の僕は先生からいつも逃げ回っていたでしょう? この首飾りに探知魔法が掛けられていたから、逃げたってすぐに見つかっていつも叱られたっけなぁ。とにかく聞き分けのない出来損ないの弟子に首輪をつけようと考えるのは当然ですよね」
「……まだ過去形には出来なさそうだが」
私の反論に嬉しそうにヤツは口を歪ませる。
一瞬でも隙を作れないかと思っての軽口だったがベッドのシーツに縫い留められた腕はびくともしない。
「逃げ出そうとしても無駄です」
掴まれた腕に力がこもる。抵抗するなと言いながら、抗う私を見るヤツの目は嬉しそうだった。
なんだ、その目は。
なんなんだ、この状況は。
そんな顔、私は知らない。
私の知っているお前は生意気で、泣き虫で、わがままでどうしようもないボンクラ王子だっただろう。
お菓子ばっか食って運動も嫌いで魔法だってろくに使えないどうしようもないクソガキだっただろう。
だけど、笑った顔はとびきり可愛かったじゃないか。
それは立派に成長した今でも変わらなかったはずなのに、なぜこんな風にお前に組み敷かれ、情欲を湛えた瞳で見つめられなければならないんだ。
あのボンクラ王子が精鍛な騎士に成長した。
次期国王としての教養も器も備わった。
本来なら喜ばしいことのはずなのに、覆い被され自由を奪われているこの状況にもうあの頃のアイツはいないのだと分からせられているようで辛かった。
「これで立場は逆転しましたね」
聞きたくない言葉が降って来て、余裕が消える。焦る。そうだ。もう私はこいつには敵わない。
「クレア先生、今度は僕があなたに首輪をつける番だ」
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