ラジオ体操の怖い話

華川とうふ

ラジオ体操の思い出

 小学生の頃、ラジオ体操にあこがれていた。

 夏休みに毎日ラジオ体操に行き、スタンプを貰う。

 恐らくアニメかドラマで見た描写だが、私は何故かそれにすごく魅力を感じていた。


 だけれど、私のその夢はあっけなく敗れた。

 母が妹を出産するのに私は父方の祖父母の家にあずけられてしまったから。


 よく知らない町で私は一夏をすごすことになった。

 これが小説の中の話ならば、私は魅力的な友人をつくり、かけがえのない思い出を作ることになるだろう。

 だけれど、現実はそうはいかない。


 私はただ、何をしていいか分からない夏休みをすごすことになった。あまりにやることがなくて夏休みの宿題が七月のうちに絵日記以外終わってしまうくらい、私はやることがなかった。


「そうだ、この地域のラジオ体操に勝手に参加しよう」


 そう思いついたのは、八月の最初の日のことだった。

 家にいるときは早朝に起きるなんてことのない私だが、退屈とそして慣れない環境のおかげで禄に眠れていなかったのだろう。

 うっすらと暗闇のカーテンが残る早朝に私はそんなことを思いつき、祖父母にだまって、近くの公園にでかけた。


 だけれど、公園でラジオ体操をやっている子供はいなかった。

 当然だ。

 今思い返せば、あれは早朝四時くらいのことだ。

 子供がそんな時間に一人で出歩いて言い訳がない。

 今と違って子供どころか、当時は犬の散歩をするひとだっていなかっただろう。


 退屈で退屈で、私はふてくされたまま公園のベンチに座って気づくと眠っていた。


 ♪~

 ♪、♪~。


 聞き覚えのある、音楽。

 そう、ラジオ体操の音がなっていた。


 私は身じろぎもせずにうっすらと目を開ける。

 もし、他の子供たちがやってきてラジオ体操をやっていたのなら、ベンチで眠りこけている自分がとてもまぬけに見えるだろうと思ったけれど。


 だけれど、うっすらと開いた瞼のあいだから見えたのは骸骨が飛び跳ねるようにラジオ体操をしている姿だった。


 セーラー服を来たが遺骨がラジオ体操をしている。


 その光景に私は一気に血の気が引いた。

 音楽に合わせて骸骨が飛び上がる度に、まくれ上がるスカート、膝はいまにもガシャンとおとを立てて崩れ落ちそうなほどはっきりと骨が浮き出ている。

 私は慌てて目をとじて「これは夢だ」と言い聞かせた。


 そして、私はラジオ体操への思いは憧れから恐怖に変わり、その日のことを誰にもはなすことはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラジオ体操の怖い話 華川とうふ @hayakawa5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る