社会人大変だけど、家に帰れば愉快で優しい地縛霊の美春お姉さんがいるから大丈夫

暇崎ルア

第1話 驚愕! 新居には地縛霊のお姉さんがいた!

 シーン1 玄関


(SE:鍵の解錠音に続き、ドアが開く音)

(主人公、玄関の上がり框に座って靴を脱ぐ)

(SE:ひゅ~っという浮遊音)

(右耳から囁かれる)

「お・か・え・り」

(主人公、驚く)

「えっへっへっへー! 引っかかったー!」

「こんばんは~。あたし、君の部屋に住んでる地縛霊です!」

「入居前に不動産会社の人から話聞いてるよね? 心理的瑕疵? とかなんとかで誰かが死んじゃった家の次の住民には説明をしなきゃいけない法律があるみたいだからねー」

「そうです、君が入る前にこの部屋で孤独死したのがあたしなんですね!」

(放心する主人公)

「というわけで、成仏とかせずここに憑りつかせてもらってま~す。君には申し訳ないけど……。って、腰抜けてる!?」

(主人公、腰が抜けて立ち上がれない)

「ちょ、ちょっと待って。そんなに怖がらせた覚えないんだけど!? ちょっと驚かせるつもりで……」

「いや、でも、自分の部屋に幽霊出たら普通は怖いか……、そうだよね……」

「……ごめん、本当。調子に乗りすぎました……」

(小声で)「あ~、こういうときどうすればいいんだっけ? えーと、えーと……そうだ!」

「ほ、ほら、お姉さんが立たせてあげる! この手に、捕まって……」

(主人公、美春さんに手を掴まれるが、手の冷たさに驚く)

「ど、どうしたの、そんなに肩びっくりさせて」

「あたしの手が、冷たかった? そ、そっか、ごめん」

「大丈夫? ほ、本当にごめんね……」

「……ま、まあ、そうよね。驚くよね。自分の部屋に幽霊がいたらね。あはは……」

「え? 本当? 別にあたしのことは怖くないの? そ、そーなんだ……」

「すごいねえ、君。勇気というか度胸あるんだね」

「……はあ、なるほど。確かによくよく考えれば、確かに生きてる人間と世間の方がよっぽど怖いよね……。わかる気がするわ……」

「ねえ、あたしのおせっかいかもしれないんだけど。なーんか君、生きるのに疲れてない?」

「何かあったんでしょ? あたしでよければお話聞いちゃうぞー?」

(主人公、仕事について愚痴り始める)

「なあるほどね~。今年から社会人になったばっかりで仕事が大変なんだ~」

「うん、うん。……そっか~、仕事でミスって怒られるの辛いよね~」

「あたしも働いてたころは、ミスばっかりだったな~。怖いおっさん上司とかお局様に何度も怒られてたよ~」

「でも、大変な中頑張ってるわけなのね、君は。偉い、偉い」

「あまりにも偉いから、お姉さんがいいこいいこしちゃうぞ~」

(主人公、頭を撫でられる)

「あ、ごめん。また、ひやんとした? つ、つい……」

(主人公、撫でられて嬉しくなる)

「おおっ、ちょっと笑った? 笑ってるね!」

「うんうん、いいぞいいぞ。元気が一番だわ」

「ではでは、君が元気になったところでお邪魔幽霊は一旦消え……」

(主人公、引き止める)

「ん? 引き止めてくれるの?」

「ありがとう。ちょっと嬉しい」

「……あー、あたしの名前? 言ってなかったっけ」

「美春だよ。苗字は何だったかな……? まあ、いいか。今はそんなもの必要ないし!」

「これ、もしかして、この部屋で君と喋ったりしていい感じ!? あたし認められたってこと!?」

(主人公、頷く)

「やった~! ありがとう~! 成仏したくともできそうにないし、人恋しかったから本当に嬉しいよ~」

(主人公に抱きつく)

「えへへ、抱きついちゃった。ごめんごめん。生前もスキンシップ多すぎってよく怒られてたわ」

(主人公、夕食に誘う)

「これから夕ご飯ね、そうだよね」

「誘ってもらえるのはすごく嬉しいんだけど、ごめんね~。あたしこんな身体だから何も食べられないのよ……」

「生きてる人間だったら、一緒に食べられるんだけどな~。でも、今はもう死んでるから栄養いらないし」

「……あー、そう。わかった。じゃあ、君が今日どんなご飯食べるのか見てる!」

「ううん、全然迷惑じゃないよ! 何もしないでぼうっとしてるより誰かと一緒にいた方があたしも楽しいしさ」

「というわけで、これから楽しいディナーターイム!」

「……と、その前に手を洗うのを忘れずにね!」

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