第6話 約束のメロディー

その日から、翔太と玲奈は放課後になると必ず屋上へ足を運ぶようになった。二人で過ごす時間はどんどん増えていき、その度に彼らはお互いの距離を縮めていった。ギターを奏でながら見上げる星空は、二人にとって特別な場所となり、毎日少しずつ違う色や輝きを見せていた。


「水嶋くん、今日の星空、いつもよりも綺麗だね。」玲奈は、夜風に揺れる髪を手で抑えながら、星空を見上げた。


翔太はその言葉に同意するように頷いた。「そうだね。毎日見てるはずなのに、何かが違う気がする。」


「もしかしたら、私たちの気持ちが変わったからかもしれないね。」玲奈は微笑みながら、翔太をちらりと見た。その視線に、翔太は一瞬だけ照れたような表情を見せたが、すぐにその場を取り繕うようにギターを取り出した。


「玲奈が言ってた“何か”を、少しずつ見つけられてる気がするんだ。この星空と、君と一緒にいることで。」ギターの弦を軽く鳴らしながら、翔太は真剣な目で玲奈を見つめた。


「それなら良かった。私も、水嶋くんと一緒にいると、自分が変わっていくのを感じるんだ。音楽って、やっぱり不思議な力があるよね。」


「うん、そう思う。」翔太は静かに頷き、メロディを奏で始めた。それは、これまでよりもずっと深い感情が込められた音だった。玲奈はその音楽に耳を傾け、ゆっくりと目を閉じた。彼女の表情には、安らぎと共に何かを感じ取っている様子が伺えた。


しばらくの間、二人は言葉を交わさず、ただ音楽と星空の下で過ごした。音の響きが夜風に乗って遠くまで届くような感覚があり、その空間には二人だけが存在しているかのような静寂があった。


そのとき、突然玲奈が目を開けて、何かを思い出したように口を開いた。「ねえ、水嶋くん。私、前からずっと気になってたことがあるの。」


「何?」翔太はギターを止め、玲奈に向き直った。


「水嶋くんは、どうしてギターを始めたの?」玲奈は真剣な表情で翔太を見つめ、その質問には彼の心の奥に何か深い思いがあるのではないかと感じているようだった。


翔太は少し考え込みながら、遠い記憶を辿るように口を開いた。「実は…小さい頃に、母さんがギターを弾いてくれてたんだ。その音がすごく好きで、いつか自分もそんな音楽を奏でたいって思ったんだよ。でも…母さんが亡くなってからは、しばらくギターを弾くことができなくなってた。」


玲奈はその話を聞きながら、優しく頷いた。「そうだったんだ…。それは辛かったね。」


「うん、でも今はギターを弾くことで、母さんとの思い出を感じられるんだ。だから、玲奈と一緒に音楽を作ることで、また新しい思い出を作りたいって思ってる。」


「水嶋くん…」玲奈はその言葉に心を打たれたようで、しばらく沈黙していたが、やがて微笑みを浮かべて言った。「きっと、お母さんも喜んでると思うよ。水嶋くんがこんなに素敵な音楽を奏でていることを。」


翔太はその言葉に、少し照れくさそうに笑った。「ありがとう、玲奈。君と一緒にいると、本当に音楽が楽しいんだ。」


「私も、水嶋くんと一緒にいると、毎日が楽しく感じるよ。ありがとう。」


二人はそのまま再び星空を見上げ、何も言わずに静かな時間を共有した。それぞれの心に、過去の思い出や新しい感情が交差しながらも、彼らの間には確かな絆が生まれていた。


次の日、玲奈が学校に現れると、彼女の表情には何かしらの決意が見て取れた。彼女は翔太を見つけると、真っ直ぐに彼の元へ歩み寄った。


「水嶋くん、今日も放課後に屋上で会えるかな?」玲奈の声には、これまでよりも少しだけ強い意志が込められていた。


「もちろん、待ってるよ。」翔太はその声に応えるように頷き、玲奈の決意に気づいたが、あえて深くは問いたださなかった。


授業が終わり、放課後が訪れると、二人はいつものように屋上へ向かった。しかし、今日はこれまでとは違う空気が流れていた。玲奈は少し緊張した様子で、翔太の前に立ち止まった。


「水嶋くん、実はずっと言いたかったことがあるの。」玲奈は深呼吸をしてから、翔太の目をまっすぐに見つめた。


「何だい?」翔太は真剣な表情で玲奈を見返した。


「私、前からずっと…音楽をやりたいって思ってたんだ。でも、何をどう始めればいいのか分からなくて、ずっと迷ってたの。でも、君と出会って、音楽がただの趣味じゃなくて、自分を表現するためのものだって気づいたんだ。」


玲奈の言葉に、翔太は驚きと共に感動を覚えた。「玲奈…君がそんな風に思ってくれてたなんて、嬉しいよ。俺も君と一緒に音楽を作りたい。」


「ありがとう、水嶋くん。でも、私にはまだ自信がない。君のように上手くできるか分からないし…。」


「玲奈、君は君なりの音楽を作ればいいんだよ。誰かと比べる必要なんてない。君の感じたことや思いを、そのまま音楽に乗せれば、それが君だけの音楽になるんだ。」


翔太の言葉に、玲奈は静かに頷いた。「そうだね…。私も自分の音楽を見つけてみるよ。君と一緒に。」


その瞬間、二人の間に再び強い絆が生まれた。玲奈は翔太の隣に座り、夜空を見上げた。星々は相変わらず美しく輝いていたが、今日の彼女たちには、これまでとは違う希望が見えていた。


「水嶋くん、これからも一緒に音楽を作り続けようね。」玲奈は、ふと翔太に向かって笑顔を見せた。


「もちろんさ。玲奈となら、どんな音楽でも作れる気がするよ。」翔太も微笑み返し、再びギターを弾き始めた。


その音楽は、二人の心を包み込むように優しく響き渡り、夜空の星々へと届けられていった。彼らの未来には、まだ見ぬ多くの可能性と挑戦が待っていたが、それでも二人は一歩ずつ進んでいくことを決意していた。


その夜、玲奈と翔太は新たなメロディを紡ぎ出しながら、夜が更けるまで音楽を奏で続けた。彼らの音楽は、星空の下で新たな形を得て、これから始まる物語の序章となるだろう。


そして、その音楽は、彼ら自身の心を映し出す鏡のように、彼らの感情と共鳴し合いながら、夜空の彼方へと広がっていった。







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