第2話

王子達は、事ここに至って、マジなのだと気づいた。

今までは、半分ノリで半信半疑だったが、これは誤魔化せない。

だって動く獣の耳である。獣人間である。怖すぎるだろ。


心臓が胸を破りそうなほどドキドキして、王子達は戸惑う。


「こ、この子達に生きる術をアドバイスするのだな。必要なくないか?」


 ラスバは動揺しつつも疑問を呈す。


「見せもの小屋でスターになれるのでは?」

「ソラ!」

「失言だった。取り消すよ」

「おいおい、ビビってんの? こんなにちっこくて可愛い子達じゃないか」

「シャー!」


 爪で一閃。頬から血が。王子達にさらなる動揺が走った。

 護衛が扉に手を出して弾かれる。アドバイザーと助手しか扉を潜れないのだ。

 そんな中、トールは微笑んだ。


「大丈夫だよ。俺はトール。君達に生き方を教えるものだ。さあ、お風呂に入って温かいものを食べようね」

「待て。俺達が入れるのか? それは不味くないか」

「メイドを呼びましょう」

「それには及ばない! アドバイザーは限られているからね! 仕方なく! 仕方なく、俺がお風呂に入れるんだ! 大丈夫! 天使に性別などない! この可愛さはまさしく天使! つまりこの子達をお風呂に入れるのは問題ないんだ。この子達は扉を潜れないし、仕方ない! 仕方ないんだ! さあ、安心して身を任せて」

「メイド呼びまーす」

「それには及びません」


 天井から人がシュタッと降りてくる。

 

「犬の世話も幼児の世話も得意でございます。護身術も納めております。どうぞサブアドバイザーに任命を」

「おお、レイナ。頼りになるな。変態王と歴史書に書かれたくなければ任命権は解放しろ。安心しろ、無駄遣いするほどバカじゃない。信じろ」

「ぐぬぬ。権限解放」


 ラスバの持っている本が輝き、幾分薄い本が現れる。

 レイナはそれを受け取り、タライを持ってきてそこに水魔法で水を入れた。

 幼女達は必死に水を飲む。


「焦らなくてもいいのよ。頑張ってお風呂に入ったら、ご褒美に美味しいものをあげるからね」

「本当にゃ?」

「食べないにゃ?」

「お腹すいた」

「お風呂?」


 トールはお風呂タイムの後のご褒美用に、部室に用意した王子用のお菓子と紅茶、簡単な服を作って渡した。四角い布に頭と腕を通す穴を開けただけのマジで簡単な服である。王子達は驚愕して三度見した。いきなりだから仕方ないだろ。


「君達の服は、僕が用意するよ〜」


 フランソワが言って、早速デザインをスケッチし始める。

 

「既製品に尻尾穴でいいだろ。時間掛かるぞ。じゃあ、我が国の国民1号から4号がお風呂に入っている間に、神の書を確認するぞ」


 ニューワールドの本を開く。


「ざっくりとした概要を言うぞ。ニューワールドには、神様が考えた超強くて格好いい動植物、人種が存在する。その中でも、獣人種は肉体的強さを強調した種族となっている。とっても力が強くて素早い代わりに魔法が苦手な種族だ。近接戦闘を得意とする。神様がそのように才能を設定した。この子達が生きていけるようにするのが最初の仕事だ」

「それは何年掛かるのかな?」


 ソラが困った様子でいう。流石に子育ては時間がかかり過ぎる。


「俺だけが使える技として、扉を閉じて時間を進めることができるんだ」

「は?」

「扉に時計があるだろ。あれを進めると、扉の向こう側の時も進む。戻すのはできない。だから、生きていく術をアドバイスして、時を進めていく。アドバイザーを送り込んで時間を進める手もあるけど、それは最終手段にしたい」

「それはもう神じゃないか?」

「神様からの依頼だからな。まだ信じてない?」


 王子達はフルフルと首を振った。


「じゃあ、今日は幼女たちに毛布と食料をプレゼントして解散だな。明日の放課後、また集まろう。皆に宿題がある」

「あんなに小さい子を放置するのか!?」

「あんな小さい子でも、生き延びてきたんだ。大丈夫。問題はこれからだ」


 そして、トールはそれぞれに指示を出す。


「パンドラ。俺達の国の簡単な法律案と良さげな神話を考えて絵本にしてきてくれ」

「ええっ」

「ルールは理解できないとルールじゃないだろ。そのとっかかりとして、神話に絡めてやっていい事悪い事を教えるのはいいと思う。あと、俺達の国の標準語を決めてくれ。五カ国の中で覚えやすく使いやすい言葉をパンドラの偏見で選んで構わない」

「ええっ!?」

「ラスバ。周辺の偵察計画と狩り、避難の訓練計画を立案してくれ。とりあえず、神殿は魔物……めっちゃ凶暴で強くて格好良くて人の敵として神に創造された生き物が入れないって言うから、そこは安心していい」

「そんな生き物がいるのか……」

「英雄譚用だな。カイトは生活拠点の作成計画な。神殿周りで取れるものがいいけど、最初は持ち込みもあり。部費の範囲でな」

「部費の範囲で!?」

「だって部活動だもの。あ、布4枚で4000ゴルドな。お茶会セットが一回分で8284ゴルド。会計は頼んだぞ、ソラ」

「僕は? 僕は!?」

「フランソワは歴史書の編纂と、国旗、部活動の制服のデザインをお願いするな。明日まで!」

「「「「「明日まで!?」」」」」

「これは最低限な、それと、それぞれアイデアを考えてきてくれ。いくらかかるかの資料を添えてな。忙しくなるぞー♡」


 置いて行かれた王子達は、顔を見合わせた。

 護衛達が声を掛ける。


「パンドラ殿下」

「神は本当にいた。私をプロトタイプとして、エルフという種族を作ったと。私は神に疎まれてはいなかった。逆だったのだ」

「ラスバ殿下」

「神が英雄譚用に人の災となる生き物を創る。ひどい話だ。だが、なぜだろうな……俺の胸は火のように燃えている」

「ソラ殿下」

「手垢のついた古臭い国などいらない。全く新しい国、作ってやろうじゃないか」

「カイト殿下」

「クッククク! なんとも面白くなってきたじゃないか。ああ、確かに。この国の玉座なんて頼まれたって望むものか。こっちの方が面白そうだ」

「フランソワ殿下」

「未来を、創る……。僕、獣人なんて想像もしなかった。想像を超えるワクワクが、ニューワールドには沢山あるんだ」



「「「「「ただし、新たな玉座は神の使徒にも渡さない……!!!」」」」」


 王子達の挑戦が、今始まる!

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