フォートゥルース
@fluxS
第0話「いつかどこかの日々」
これは、本当の自分を見つける旅に出る4人の少年少女の物語――
荒廃し、見捨てられたはずの旧市街地は――だが、耳をつんざく銃声と、巻き上げられる粉塵に包まれていた。空はどこまでも青く、建物の影は短かった。
そこでは4人の少年少女と1体のサイボーグの男が、単独で暴走したバトルゴーレムと戦闘を繰り広げていた。
《ユー、弾薬を!》
「やってる!」
ユーと呼ばれた黒いバトルスーツに身を包んだ少女は左目が濁り、左手がサイボーグであること以外、どこにでもいる少女だった。もう片方の瞳の奥には確かな意志があり――左目の痛々しさを拭うようだった。
彼女はサイボーグ化された左腕に、内蔵されたデバイスを起動する。手元にホログラム状の設計図が展開された――スーツに入ったシルバーのラインがほんのり青く輝く。ユーはさらに銀色のバッグから取り出した金属の球体と水色の流体を、ホログラムの中心に放り込んだ。
ディーン!少女の左腕のデバイスから展開されたアームが、瞬時に伸び……先端から赤いレーザーを放った。レーザーは手のひらに浮遊するホログラムと球体をなぞり、火花を散らす――ユーのかき上げるようにまとめられた黒く長い髪が少し焦げた。金属の球体と流体は、瞬く間に銃のマガジンとなった――
「トロン!」
ユーは迷わず作ったマガジンを放り投げる――トロンと呼ばれたアンドロイドの少女は、それを難なくキャッチした。目深にかぶった黒いつば付きのキャップから瞳が覗く。その黄金の双眸はまばたきせずに、冷たいまなざしを敵に送っていた。彼女の黒地のバトルスーツに入った金色のラインは発光し――夜を裂く轟雷のようだった。その姿を見るだけで、ユーの心臓の鼓動はいくらか静まった。
トロンは、まだ熱を帯びるマガジンをハンドガンに装填した――
ドーン!ゴーレムの額からレーザーが放たれる――赤い閃光はあたりの空気を焦がし、肺が熱くなったユーは一瞬息が苦しくなった。ゴーレムの狙いは、リロードの隙を見せたトロンだった。ユーは胸の奥に、氷を突っ込まれたような悪寒を感じた。
しかしその攻撃は、トロンの身長ほどもある合金の盾で防がれていた――彼女のキャップからはみ出した黒いツインテールが振動でゆらりと揺れる。そびえ立つ盾は、ユーにとって鉄壁の城に見えた。
ディーン!トロンはハンドガンのトリガーを引く――放たれた黄金の雷撃は、ゴーレムに喰らいつく。電流に体中を嚙みつかれたゴーレムは痙攣しながらよろめき、膝をついた。その瞬間、ユーの緊張の糸は緩んでしまった。
(さすがトロン!これなら――)
だが……ゴーレムは態勢を立て直し、その巨大な腕をユーへと振り下ろした――先ほどまで他者にあった危険は、一瞬でユーの物となった。
(うそ――)
ドワァァン!奇妙な振動があたりに広がった――確かにゴーレムの鉄拳はユーに振り下ろされた。が、ユーの意識は健在だった。
「ユー、ぼぉっとすんな!死ぬぞ!」
「レオ、ごめん!」
レオと呼ばれた金髪の少年は、水色の艶やかな、流水のようなバリアでユーを守った。刈上げられた側頭部には、ところどころ薄い傷が浮かんでいた。海のような彼の藍色のバトルスーツには、オレンジのラインが炎のように駆け巡る――その表面には、いくつもの古い傷や焦げ跡が残っていた。そして、胸の水色に輝くコアは、夜空の星の如く輝いていた。
レオはバリアでゴーレムと競り合りあい続けている。スーツの襟のたてがみのようなファーが、振動で揺らめいていた。その勇壮な姿を見たユーは、自分の頬を叩いた。痛みが視界のぼやけを取り払った――
ステラは彼の獲物である巨大な斧を振り上げ、ゴーレムに強烈な一撃を見舞った。しかし……
「固てぇ!」
「どうすれば……」
《なんとかしてやる!そんな間抜けな声を上げるな!》
「アルブレヒト!?」
アルブレヒトと呼ばれたサイボーグの男性は、エネルギーライフルのカートリッジを、黄緑のライトラインの入ったものに換装した。彼のボディにはステッカーが貼られていた――《scratch25N》」《Sense》《Dirty daddy……》 《Laika!!!LOVE YOU!!!》色とりどりのステッカーは文字が掠れていたが、どれも彼の体を優しく包んでいた。
デュデュデュデュ!!彼のライフルは黄緑のマズルフラッシュを上げた。紺とワインレッドのボディが照らされる――
ゴーレムは射撃自体にダメージを受けていなかったが、装甲が酸でただれていった。
このチャンスを手にする人物をユーは知っていた。彼女は即席でヒートナイフを3本生成し、上空へ投げた――
「ライカ!お願い!」
ライカと呼ばれた銀髪の少女は、すでに真上に高く跳躍していた――黒のバトルスーツは、ほかの者と違って動きやすいように、肌が覗くほど軽装だった。蛍光色のピンクのラインは、そのしなやかな筋肉の動きにぴったりと沿っていた。大きく開かれたピンクの瞳は、獲物であるゴーレムに喰らいついている。
太陽を背にした彼女の動きは、ユーには捉えられなかった。彼女はゴーレムの関節に、ユーから受け取ったナイフを投げ、ゴーレムの肩の動きを一瞬で奪った――
「このまま、一気に狩る!!」
ライカが急降下すると、刈上げた側頭部につけられたピンクのチューブがパタパタ揺れる――彼女はゴーレムの頭に、ホルスターから抜き放ったヒートマチェットで切りかかった。高熱の刃先がゴーレムの頭をバターのように裂いた――
ゴーン、ピピピピ!ゴーレムのエラー音があたりに響く――
それを見たユーは、生成した亜空間のポケットから必殺のガジェットを取り出した。粒子化していたその銃は次第に元の形に形成されていった。
巨大な銃から伸びたケーブルは、自動でユーの背中のバックパックに接続された。バックパックから銃へと……エネルギーが流れていく。銃内部のチャンバーに水色の流体がとぐろを巻いていた。
ユーは少し目を閉じ、再びゴーレムを見据えた。そして深呼吸し――
「ハイドロラン……!!」
高らかに宣言する――その合図を聞き取った4人は、ユーの前から一気に飛びのいた。
《ピピピ……?》
「ドライバーァァァァァァ!!!」
ドゥラァァン!銃から放たれた水色の奔流は、ゴーレムを一気に包む――鋼鉄のボディは一瞬でほどけ、跡形もなく消え去った。あたりの空気が熱され、空気中の分子さえほどけていった。
「……終ったな」
レオが巨大な戦斧を肩から降ろすと3人は構えを解いた……
ユーは目を閉じ、握りしめた手を胸に当てる。胸の中にあたたかな安らぎが満ちる……
(私の欲しかったもの……それは――)
――END
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