第21話 三台のオートバイに絡まれる

 二人は次のサービスエリアで車を停めた。駐車場へ入って行く時、向う側の端に先程の三人組らしい姿が見えたが、達夫たちがオートバイのエンジンを切らない内に、居丈高な爆音を轟かせて走り出して行った。二人はレストランへ入り、軽い夕食を食べた。テレビではお笑いタレントが面白くもない突っ込みを入れて喋べくっていた。スパゲティとカレーライスを食べながら達夫が言った。

「なあマミ、此のまま行けるところまで走って、その先で泊まろうか?」

「うん。一晩泊まるくらいのお金なら私、持っているわよ」

雅美が軽く応じた。

食事が終わってから達夫は手洗いに立ち、自販機でコンドームを買った。

 三十分ばかりして、二人はまた走り始めた。

車体の軽い振動と一緒に達夫の後ろにぴったりとくっ付いている雅美の身体が微かに震えた。速度を一定にして、単調な排気音のリズムに身を任せていると、先を走っている車のテールランプの赤い列なりが夜の中のルビーの首飾りのように曲がりながら伸びて、走っている道が永遠へ向かって続いているような気がして来る。

こんな晩に、この娘と、こんな道を走ったことを俺はきっと一生忘れないだろうな・・・

 長い緩やかな上り坂を過ぎて、ゆっくりと左へ曲がり込んだ辺りに、故障車の為の退避所が在った。其処を通り過ぎる時、さっきの三台のオートバイが停まっているのが見えた。すっかり忘れていた不安が達夫の中でまた急に膨らんで来た。

「しっかり摑まって居ろよ!スピードを上げるぞ!」

達夫は後ろへ向かって怒鳴り、速度を一杯に上げた。幸い、今度は長い緩やかな下り坂が始まり、達夫のオートバイは快調にスピードを上げて夜の闇の中へ突っ込んで行った。

 だが、間も無く後ろの方から聞き覚えのある爆音が三台、互いに絡み合いながら聞こえ始め、瞬く間に近づいて来た。達夫のオートバイは全速に上げていたが、忽ち並ばれてしまった。そして、達夫たちのオートバイを囲むようにして、一台は横に、一台は後ろにぴったりとくっ付き、もう一台は先導するように前についた。雅美が達夫の腰に回した腕にぎゅっと力を込め、身体ごとしがみ付いて来た。

「おい、変な真似は止めろ!」

達夫の怒鳴る声は三台のオートバイの爆音に消されて相手の耳には届かなかった。

 達夫はまた先程のように速度を落としてやり過ごそうとしたが、すぐ後ろについているオートバイがけたたましくホーンを鳴らして追い立てた。相手のオートバイは排気量でも重量でも軽く此方の三倍は有りそうだった。後ろにしろ横にしろ、この速度で接触したらすっ飛ぶのは此方である。左側は路肩で、速度を更に上げて前へ抜けることなど到底出来ることではなかった。そして、傍を走っている自動車から見れば、オートバイ四台がただ走っているだけの光景で、いくら叫ぼうが喚こうがホーンを鳴らそうが、仲間同士で怒鳴り合いふざけ合っているようにしか見えない。四台のオートバイは暫くそのまま、小型オートバイの出せるぎりぎりの速度で、夜の高速道路を一塊となって走り続けた。達夫は不安と恐怖に圧し拉がれそうだった。後ろでしがみ付いている雅美の身体が錘のように重く感じられた。

こんなことは夢なんだ。明日の朝、目が覚めたらきっと、自室のベッドの上で丸まって寝ているんだ・・・

だが、現実はそうではなかった。不安と恐怖は愈々高まって行った。

 やがて前方に次の出口が見えて来た。前を走るオートバイが左折灯を点滅させ始めた。横のオートバイも左折灯を点けながら、頭を車体の半分ほども達夫のオートバイの先に出した。出口が来ると、速度を落とすことなく左へ曲がって行く先頭車に続いて、右横のオートバイも左へハンドルを切ったので、達夫のオートバイは頭を抑えられ、それに従いて左折するしかなかった。後ろからは最後の一台が、時折、けたたましくホーンを鳴らして追い上げて来るので、達夫は速度を落とすことも出来ず、危ういバランスを取りながらスリップせずに何とかカーブを曲がり抜けた。

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