1-6
「マナの放出は、マナの存在を認識できれば簡単よ。体内で巡らせていたマナを体外へ向けて流すの。こんな感じに。」
そう言ってサクラさんは右人差し指を前に向けると、その指先からポウッと小さく綺麗な火が出てきた。
「ワタクシは
「ええと……取り敢えず赤色は『ライト魔法』らしいです。」
「取り敢えず、とは何ですの?」
「ええと、ツユクサさんが言うには、私は頑張れば七種類の魔法が使えるらしいんです。で、まず最初は基本の赤色を練習しろ、と詳細を教えていただきました。」
なので他の色がどんな魔法なのか、まだ私にも分からないんです。
そこまで言葉にすると、サクラさんは唖然とした。
「普通、魔法は一人一つなのに……?」
「……? どういうことですか? 二色三色の属性持ちは複数個の魔法を扱えるんじゃあないんですか?」
「いいえ。例えば二色混ざった
火は水で消えるし、水は火で蒸発する。自然の摂理として、何らおかしいことは言ってないでしょう? だから誰もが一種類の魔法しか扱えないのよ。
サクラさんにそんな常識を教えられ、私はまた困惑する。じゃあ私はどうなんだ、と。何故私は七種類もの魔法が扱えるのだろう、と。
そして、色と光ではそこまですらも違うというのか、と。
「まあ、幾つか扱える魔法に種類があるのだとしたら……そうね、その赤色のライト魔法、でしたっけ? それをイメージしながらマナを放出してみなさい。」
勝手が違うから教えようがないと突き放されるもことなく、サクラさんは親身になって色々考えてくれた。そのことに感謝しながら『やってみます』と返事をする。
指の先の先まで満たし巡らせていたマナを、指先にも伝えて放出させる。すると、
ポッ
軽い破裂音と共に直径五センチほどの光源が現れた。それも指先から。
「お、おぉー……」
どうしよう、言っては悪いが地味だ。初めて魔法が使えた達成感やら感動よりもそっちが表に出てしまう。
「あら、可愛らしい魔法ですのね。」
これなら新月の夜も明るく過ごせそうだわ。そう前向きに笑ってくれたサクラさん。
そして『魔法、使えたじゃない』と一緒になって喜んでくれた。その言葉を聞いて、ようやく魔法が使えるようになった実感が湧いた。
「サクラ、ありがとうね。」
そう二人で喜んでいると、どこからともなくツユクサさんが現れた。その気配のなさにサクラさんと共に肩を震わせる。
「もう、ツユクサ様! もう少し気配をお出しになって?」
「ごめんなさいね、もうこれが癖になってしまっていて……善処するわ。」
そう言ってコロコロと笑うツユクサさん。それを見て怒るに怒れなくなったらしいサクラさんが一つため息を吐き、まあ、それがツユクサ様ですものね、と笑った。
「さて、サクラは見事エンレイの魔法の才能を引き出してくれたわけで。サクラ、お礼は何が良いかしら?」
ツユクサさんは私の頭を撫でながら、サクラさんにそう問う。
「そんなっ! ワタクシはツユクサ様に褒めていただけたらそれで大満足ですわ!」
頬を赤く染めてそう言い切ったサクラさん。その言動から嘘を言っているとは思えず、本当にツユクサさんに褒めてもらえるのが至高なのだと見せつけられた。
「もう……サクラはもっと欲深くなっても良いんじゃないかしら?」
「いえ、そんな! ツユクサ様に褒めていただくのが一番嬉しいのです!」
「えぇ〜、それだと私が納得出来ないわよ〜?」
ツユクサさんが納得できないのはサクラさんの本意ではないらしい。サクラさんはハッとそれに気がついたように顔色を変え、ツユクサさんが納得されるにはどうすれば、と熟考した。
「っ……で、でしたら一つ! お願いがございます!」
「何かしら?」
「ツユクサ様の魔法をまた見せていただきたいのです! 以前拝見した魔法がとても綺麗で、ワタクシあれから何度も夢に見るのです。」
まるでツユクサさんの魔法に恋をするかのように顔を輝かせるサクラさん。彼女がそうも絶賛するほど綺麗な魔法とは一体どんなものだろう。私も少し興味が出る。
……しかし、はて、そもそもツユクサさんは何色の属性持ちなのだろうか。
というのも、この世界の人間の髪色は濃淡ではなく彩度で力の差が決まる。だから
「ふふ、そんなに言ってもらえたなら嬉しいわ。じゃあ少しだけ、ね。」
と、私が頭の中でグルグル考え込んでいる間に話は進み、ツユクサさんが魔法を披露することになっていた。
「はいっ!」
今までにない程嬉しそうな表情でツユクサさんを見つめるサクラさん。私もジッとツユクサさんの魔法に意識を向ける。
「じゃあまずは……」
そう言って右手を横に振るう。その瞬間彼女の顔位の大きさの水の玉が一つ現れた。ああ、やっぱり
髪色が薄い人はいないと私は思っていたが、それは私の無知故なのだろう。サクラさんも疑問に思ってなさそうなその様子を見て、こう見るとそれはままあることなのかもしれないと理解した。
そんなことを考えている間にも、ツユクサさんはその水の玉を目視出来るか出来ないかくらいに細かく刻み、手をもう一振りした。そしてそれをこの中庭に撒き散らす。
私の手の中にもそれが舞い込んできて、思わずそれを手のひらで掴むとスッと消えていった。まさかこれは……
「雪……?」
まさか
先程まで陰っていた日がちょうど良く照り始め、その光が雪を輝かせる。確かにサクラさんが絶賛するのも頷ける。中庭がキラキラ輝いて見えるのだから。
「綺麗……」
「でしょうとも! やはりツユクサ様の魔法は他の誰のものよりもお美しいわ!」
この美しい世界を見て興奮したらしいサクラさんは嬉々として私に説明してくる。
曰く、どんな優れた
曰く、サクラさんも火の温度を変えるなんて卓越したマナ操作はできない
曰く、だからこそツユクサさんはその実力を持ってして皆に敬われるのだ
と。だから次期総指揮官としてあなたもそれくらいの実力を会得しなさい、と。
その言葉を聞いて、もしかしたらサクラさんは私に期待してくれているのかも、だなんて烏滸がましい程自分に良いように言葉を解釈し、これからのモチベーションにしたのだった。
…………
次の日。私は一人で赤属性魔法の練習に励んでいた。なんたって今はまだ意識を強く持っていないと発現させられないから。
これを意識せずパッと付けられるようになったら、これから会得する他の属性を操るのも少しは容易になるかと思って。
と、そんな思惑すら見透かすようにツユクサさんは音もなくこの場に現れ、また唐突に今日の予定を組み込んだ。
「今度は植物園に行くわよ!」
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