第11話 ごめんなさい!!
「案外楽勝だったね!」
トキワとシュアンの二人はゴブリンの討伐を終え、森の中の街に続くけもの道をのんびりと歩いている所だった。
「うん」
いつも通り天真爛漫に笑う駄エルフの横でシュアンも顔を綻ばせる。初めての割に連携も上手くいき、心配性な兄や姉との仕事とはまた違った楽しさも感じたシュアン。彼女は内心、これからもトキワと一緒に傭兵を続けていけたらと考えていた。
安心するといい。この駄エルフは、既にその気だぞ。
さて、そろそろ街が見えてくる頃合いだが……。
(うーん、あの人たち、何もしてこないね? ずっとついて来てたから、何かしてくると思ったんだけど……)
駄エルフはエルフとしての鋭敏な感覚で彼らの存在を把握していた。賢明なる観客諸君は把握しているだろうが、シュアンを心配して見守りに来た孤児院の兄や姉パーティだ。
(どうする? 人の目があるところまで急ぐ? でもそうしたら向こうも焦って何するかわかんないし……)
その彼らを駄エルフは、シュアンをいじめる悪い先輩パーティだと勘違いしたままだ。シュアンと彼らの様子をよくよく観察していれば分かったことなのだが、駄エルフは相変わらず謎のフィルターを通して見ているからな……。
「トキワ君、どうしたの?」
「えっ? あ、何でもないよ! うん!」
駄エルフ、動揺しすぎだぞ……。どれだけ視線をさまよわせるのだ? 駄エルフの中のシュアンは転移能力者なのか?
(あ、危ない。シュアンちゃんに余計な心配させるところだったよ!)
確実にしているぞ。
(やっぱり、私がどうにかしないとだよね! 決めた!)
「シュアンちゃん! ちょっと用事思い出したから先に行ってて!」
「えっ!?」
「いいからいいから!」
「え、あ、うん。わか、った……?」
いや、さすがに強引すぎないか? 確実に余計な心配の種を増やしたぞ?
シュアンはよくわからない、と言った顔をしながら街へ帰っていく。時折ちらちら後ろを振り返っているが、駄エルフは上手くいったと内心ご満悦だ。やはり駄エルフだな……。
「さて、と。さあ! そこに隠れてるのは分かってるよ! 観念して出てきなさい!!」
(このセリフ、ちょっと言ってみたかったんだよね!)
ずっこけそうになる駄エルフの内心は置いておいて、彼は少し離れた暗がりにある茂みを指さす。これで全然違うところから先輩心配性パーティが出てきたら面白いのだが、草ってもエルフだ。間違いなく、駄エルフの指さした茂みが揺れ、目の下に三本の爪の跡がある体格のいい青年が姿を現す。続けて男女三人が出てきた。
「気が付いてたのか。ていうか観念って……」
「あなた達の目的は分かってるよ! そんなの、私が許さないんだから!」
分かってない。
「はぁ? なんでお前に許されないといけないんだよ。俺らが好きでやってんだからいいだろ?」
「いいわけないでしょ!!」
いいわけある。
彼らはシュアンを守りたいだけだぞ? 駄エルフと同じで。
「どうしてもって言うんだったら、私を倒してからにしなさい!」
あ、絶対今、これ言ってみたかったって思ってるな。
(このセリフも言ってみたかったんだ!)
ほらな。
「はぁ、仕方ない。お前ら、優しくしてやれよ?」
「わかってる」
(優しくって、優しく(笑)って事でいいんだよね。負けないよ!)
……これ、この若者の言い方も悪いのではないか? いや、駄エルフの謎フィルターが悪さしていることは確かなのだが……。
「いくよ!」
駄エルフは魔法で強風を巻き起こし、先輩心配性パーティの体勢を崩しにかかる。それを先輩心配性姉その一が土魔法で壁を作ってやり過ごした。
駄エルフは土の壁で彼らの視界から自分が消えた隙に樹上へ上る。
「なっ、いない!?」
「こっちだよ!」
そして彼らの頭上から声を掛けて注意を逸らした隙に土魔法でその足元に働きかけた。
ほう、なかなか戦い慣れてきたな、トキワのやつ。
「きゃっ、何これ!?」
「急に足元が沼に!?」
「くそっ! 魔法と弓で時間を稼いでくれ! その隙に何とか抜け出す!)
下半身の埋まったリーダーが指示を出すが、少し遅かった。トキワは沼にした地面を元に戻して完全に固めてしまう。更に風の弾丸で土魔法を使える先輩心配性姉を気絶させた。
勝負あり、か。
「どう? まだやる?」
「くっ……。お前、何が目的だよ! うちの妹に何かしようってんなら、ただじゃおかねえからな!」
「はい? 何言ってるの?」
「シュアンを泣かせたら、地の果てまで追いかけて公開させてやる!!」
(……うん?)
はぁ、ようやくだな。
(ちょ、ちょーーーーっと待って? え、こいつら、シュアンちゃんを虐めてたんじゃなかったの!?)
そうだぞ。
(いやいやいや、きっと口から出まかせ言ってるんだよ!)
「そそそそそそんなこと言ったって騙されないんだから!」
ほら、また目が泳ぎまくっている。
その駄エルフを見て、先輩心配性パーティは互いに顔を見合わせた。駄エルフが何か勘違いをしているかもしれないと気が付いたようだな。
「な、なぁ。もしかしてだが、お前、俺らがシュアンを虐めてるとか思ってないか?」
「そ、そうでしょ!」
顔が青いぞ駄エルフ。
「いや、違うから。俺ら、シュアンと同じ孤児院で、あいつは妹みたいなものだから守ってただけだぞ?」
かなり過保護にな。
「で、でも、シュアンちゃん、あなた達を見て顔を曇らせてたし……!」
「それは私たちがシュアンに簡単な依頼しか受けさせないからじゃないかな? 私はもう大丈夫って言ってるのに、兄さんたちは心配性だから……」
気絶させられなかった方の女性がそう言ってリーダーや気絶している姉を見る。
「じゃ、じゃあ、シュアンちゃんが仕事がうまくいかないって言ってるのは……」
「簡単な依頼しか受けさせないせいでランクが上がらないことじゃないか?」
そのとおりだな。
「…………」
駄エルフの顔を滝のような汗が伝う。やっと自分の勘違いを認めたか。
「「「…………」」」
無言で見つめあう両者。
「…………ご、」
「「「ご?」」」
「ごめんなさーい!!!!!!」
駄エルフは叫びながら樹上から飛び降り、街へと走っていく。
残された先輩心配性パーティはその様子を呆然で見送っていた。
「……はっ! ちょ、ちょっと待て!!」
下半身を埋められたまま。
「これ、戻してからいけやぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」
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