彼女たちは拗らせている ~色々と拗らせた美少女たちに童貞を狙われているが、僕だって童貞を拗らせていることを忘れないでほしい~
邑樹政典
EP1. 僕たちは拗らせている
第一話 彼女のスケッチ
廊下にスケッチブックが落ちていた。
美術部での部活を終え、下駄箱へと続く廊下を歩いていたときのことだ。
前方を見やると、夕日の差し込む廊下の先に一人の女子生徒が歩いているのが見える。
あの子が落としたものかな……?
僕は落ちているスケッチブックを拾い上げると、なんとはなしに表紙をめくってみた。
そして、衝撃を受けた。
一ページ目から思いっきり男性器のデッサン画が描かれていたのである。
男性器――つまり、おちんちんだ。
ページをめくる。
二ページ目は男性の下半身だ。やはりおちんちんもしっかりと描かれている。
三ページ目、四ページ目、五ページ目――。
様々な角度から描かれるおちんちんたち。たまにお尻側からも描かれていた。
これを、あの子が……?
僕がスケッチブックを閉じながらその場で震えていると、足許に人影が現れた。
見上げると、先ほどまで前方にいたはずの女の子がそこに立っていた。
めちゃくちゃ背が高い――いや、僕が小さいだけか。
僕の身長は160cmジャストである。
そして、おそらくこの女の子は170代後半はあるだろう。頭一個は違う。
その顔には見覚えがあった。
クラスメートで同じ美術部の部員でもある、翠川陽菜だ。
というか、この学校で彼女を知らない者はいないだろう。
絵にかいたような美しいロングヘアに、整った目鼻立ち――すらっとした手足はモデルかと思うほど長く、おっぱいもでかい。とくにおっぱいがでかい。
GWに入るくらいまでは、陽キャ系の上級生がわざわざ三階の端にある1-8の教室までナンパに来るほどだった。
そんな、望めばリアルちんちんを弄ぶこともたやすかろう学生ヒエラルキー最上位の女子が、なぜスケッチブックにここまで執拗に男性器のデッサンを……?
そんな僕の疑問を瞳から感じとったのだろう。
僕を見下ろす翠川の瞳が不安と恐怖に揺れるのが見えた。
「……見た?」
僕は首を振った。
思いっきり見たが、ここで正直に答えるのはヴァカのすることだ。
「こ、これ、翠川……さんの?」
「……うん」
「そ、そうなんだ。ど、どうぞ」
「……ありがと」
僕からスケッチブックを受けとっても、しばらく翠川はスケッチブックごしに僕の顔をじーっと睨みつけていた。
切れ長で大きな瞳は遠くから見ている分には美しいが、これはちょっと寿命が縮む。
だが、翠川はそれ以上は何も言わず、くるりと振り返って下駄箱のほうへと歩いて行った。
ひとまず命は助かったか……。
しかし、とんでもない秘密を知ってしまった。
いや、むしろ知らなかったことにしておいたほうがいいかもしれない。
僕のようなドちび陰キャは下手にヒエラルキー上位の人間と関わるべきではないのだ。
このことは記憶の奥底にしまっておくことにして、明日からまた平和に生きよう。
それが高校生活を平穏無事に過ごすための何よりの秘訣だ。
いやでも、これって僕一人で抱えるには少し重すぎないか……?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
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