私が死んで後悔した人達へ

冬猫

第1話侯爵夫人の最後

「きゃーっ!!奥様!?」

意識が薄れて行くなかで聞こえたのは、メイドの叫ぶ声だった…

私はベッドの上で仰向けになり、左手にはまだ感覚が残る生暖かいモノが私の左手から流れていた。

「ソフィア!?」

「お姉様!!」

二人が一緒に私の部屋に入って来た…

「……ソフィア…なんてことを…何をしている早く医師を呼べ!!」

「は、はい!」

…何故貴方がそんな苦しそうな顔をするの?

「ソフィア…しっかりしてくれ!もうすぐ医師が来る」

「……」

感覚がない私の手首を首に巻いていた自分のスカーフを取って、私の手首に巻く旦那様…最後に貴方の優しさを知って良かった……

「ソフィア…」

私の名前を何度も呼ぶなんて…貴方と結婚してから一度も私の名前を呼んでくれなかったのに…

「お姉様…お姉様…ごめんなさい…」

…涙を流す貴女は綺麗ね…旦那様が貴女に振り向くのが分かった気がする…明るくて笑顔が素敵な貴女と違い私は、いつも旦那様の顔色を伺っていた…それでも私は、旦那様の隣で私に微笑んで欲しいと願っていたのに……

「医師様をお連れしました!」

「…な、何があったのですか?」

「話はあとだ!妻を助けてくれ」

……妻…私はもう貴方の妻ではないのに……

「…最善を尽くしますが…」

…医師様、貴方にはお世話になってばかりね…

ズキッ!

「痛っ!」

「エミリー!?」

「…お、お腹が…赤ちゃんが…」

「!!」

「早くエミリーを別の部屋へ…医師、エミリーを見てくれ!」

「し、しかし、奥様が…」

「っ…」

「ああっ…痛い、痛い!助けて…アレック様…」

「つ、医師、私と一緒に来てくれ!」

…エミリーを抱き上げる姿を初めて見たわ…私にもしてくれたかしら…

「…っ、奥様、奥様…お気を確かに…直ぐに戻ります」

「……」

…これでいいの…死が近づく私よりも…今から妻となる妹と貴方の子供が旦那様を支えて行くのだから…

「…奥様?…奥様!?」

体の感覚が消えた私は眠たくなって…体からふわふわと何かが抜けたような…メイド達が私を呼ぶ声に目を開けると、ベッドの上に眠るように仰向けで寝ている私を見ると…『ああ…死んだのね私…』

「ソフィア!!」

「奥様!!」

扉を勢いよく開けた旦那様を見た私は、魂となった私に気づいていないようで…フラフラと旦那様らしくない歩き方をして…ベッドの上に眠っている私の側に来て俯く姿を初めて見た…

「…ソフィア…何故……」

『何故?』

私はそのまま貴方に言いたい…

『何故、私を裏切ったの?私は貴方の子供が欲しかったのに…何故妹が貴方の子供を身籠ったの?!』

生きているうちに貴方に言えなかった私の後悔…もう、ここには私の居場所は無いのだから…

私は引き寄せられるかのように、上へと向かい最後に目にしたのは、私の亡骸の側でまだ俯いている夫アレックの姿だった…



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