第17話 最後の試練

王宮の地下は、静まり返っていた。エリオットとアイリスは影を封じ込めるための儀式を終えたが、その場の空気は異様に重く、何かがまだ完全には終わっていないという感覚が二人を包んでいた。影が消え去った広間には、不気味な静寂が漂い、二人の息遣いだけがその場に響いていた。


「アイリス、大丈夫か?」


エリオットは、アイリスの肩をそっと支えながら、彼女の顔を覗き込んだ。アイリスの顔には疲労の色が濃く表れていたが、彼女は静かに微笑み、力強く頷いた。


「ええ……でも、まだ何かが残っている気がする……」


アイリスの言葉は、エリオットの胸に重く響いた。影を封じたはずの儀式が、何かを未解決のまま残しているような不安が、彼の心に広がっていた。しかし、彼はアイリスの手をしっかりと握り直し、もう一度この地下に潜む闇に立ち向かう覚悟を固めた。


「もう一度、この広間を調べよう。影が本当に消えたのか、それとも何かがまだ潜んでいるのかを確かめなければならない。」


エリオットの言葉に、アイリスは頷き、二人は慎重に広間を歩き始めた。彼らは再び、古びた祭壇の周りを調べ、影の残骸や、何か手がかりがないかを探した。だが、影そのものは完全に消えており、ただ残ったのは、広間を包む深い静寂だけだった。


その時、エリオットは祭壇の奥に何か異質なものがあるのに気づいた。それは、床に刻まれた古代の文様で、儀式の一部として使用されたものであった。しかし、その文様の一部が奇妙に光を放ち始めていた。


「アイリス、ここを見てくれ……」


エリオットはアイリスを呼び寄せ、その光る文様を指差した。アイリスはその光に目を凝らしながら、静かにその場に膝をついた。彼女の指先が文様に触れた瞬間、広間全体が微かに揺れ動いた。


「何かが……まだこの場所に残っている……」


アイリスが呟いたその瞬間、文様が一瞬にして強烈な光を放ち、広間全体がその光に包まれた。エリオットとアイリスはその光に圧倒されながらも、なんとかその場に踏みとどまった。


「これは……一体何なんだ……?」


エリオットはその場に立ち尽くし、光の源を見つめた。光の中心から現れたのは、まるで時間の流れが巻き戻されるかのような光景だった。影の力が完全に封じ込められる前の瞬間が、目の前で繰り広げられていたのだ。


その光景の中で、エリオットはリオネルの姿を見つけた。彼は儀式を行い、影を封じ込めるために命を賭けて戦っていたが、その最後の瞬間、リオネルは何かを残していたことにエリオットは気づいた。


「リオネル様……」


エリオットはその光景を見つめながら、リオネルが影と戦った最後の瞬間に何を遺そうとしていたのかを理解しようとした。リオネルは、その瞬間、影の力を完全に封じ込めることはできなかったが、何か重要なものをこの場所に残していた。


「これは……リオネル様の意志か……」


アイリスが呟いた。彼女もまた、その光景を通してリオネルの意志を感じ取っていた。リオネルは、自らが成し遂げられなかったことをエリオットとアイリスに託そうとしていたのだ。


光が徐々に消え、再び静寂が広間を包んだ。エリオットとアイリスは、その場で何が起こったのかを理解するまでにしばらく時間を要したが、やがてその意味を悟った。


「リオネル様は、私たちに何かを伝えようとしていた……彼が成し遂げられなかったことを、私たちが……」


エリオットは深く息を吐き、リオネルが残した最後の使命を引き継ぐ覚悟を固めた。影を封じるための儀式は終わったが、それだけでは完全に終わっていない何かがある。それを完遂することが、リオネルが遺した意志を継ぐ者の役目であると感じた。


「リオネル様が遺したもの……それが何であれ、私たちはそれを成し遂げるしかない……」


エリオットの言葉に、アイリスは力強く頷いた。彼女の目には、再び戦いに挑む決意が宿っていた。彼らは、リオネルが残した最後の手がかりを追い、この王国を影から完全に解放するための新たな試練に挑むことを誓った。


「これが最後の試練になるだろう……私たちはリオネル様が残した意志を成し遂げ、王国に本当の平和をもたらすんだ。」


エリオットはその言葉を胸に刻み、再び立ち上がった。彼はアイリスと共に、リオネルが残した手がかりを探るために新たな一歩を踏み出した。

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